Cafe HOUKOKU-DOH

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人事屋修行記(第9話)

歓迎会

現場実習は一日中立ちっぱなしなので、一週間目は作業中も寮に帰ってからも足が痛くてたまりません。でも人間の慣れというものは大したもので、一週間を過ぎたあたりから、一日中立っているのがなんともなくなってくるのです。

 

それと同じように、あれだけラインの周囲の人からあおられていた作業も徐々にスピードについていけるようになり、頭では別のことを考えられるようになってきました。

 

ラインの人たちは前にも書いたとおり、班長ともう一人以外すべて女性です。大学卒の若いおにいちゃんには興味津々で、とにかく休憩中はもちろん、作業中も朝から晩までずっと質問攻めです。半月もするうちにボクの趣味嗜好から両親をはじめとした家のこと、彼女のことまで何でもライン中でシェアされました。

 

製造ラインは製品を流れ作業で効率的に作ることに適しているのですが、噂を広めるのにも適しています。朝、ラインの誰か一人が情報を持ち込むと、その情報が製品と一緒にラインに載って前後に伝わっていきます。

 

午前中の休憩で左右のラインにそれが拡散し、午前中には複数のライン全体で共有され、お昼休み後には、その話に尾ひれがついて他のラインにも伝わり、午後の作業中に工場全体にシェアされます。

 

基本的にみなさん、毎日家と会社の往復で職場もメンバーも固定で変化があまりありませんから、そういった刺激のある話は特に喜ばれます。

 

実習開始の翌週、ありがたいことに早速、歓迎会をひらいていただきました。場所は工場の斜め向かいの食堂「いづみや」さん。奥のお座敷を貸し切って盛大に宴会をしていただきました。

 

会場に付いて席に着くとみなさんがなにやら荷物を運び込んでいます。中身を見ると日本酒や焼酎、ウイスキーなどにはじまり、スナック菓子や乾きモノ、さらにはタッパーに入ったお漬け物まであります。

 

「いづみや」さんは持ち込みOKということで、宴会料理とビールは注文していましたが、それ以外はかなりの量の品物を持ち込んでいて、これには当時かなりカルチャーショックを受けた記憶があります。

 

宴はつつがなく進んでいきました。ボクは当時からあまりお酒が強くなく、学生時代にもいろいろ失敗していましたので、社会人スタートの飲み会だけは、とかなり緊張し、お酒もセーブしていました。

 

それでも主役ですので、かなり飲まされましたが、何とか持ちこたえたようです。宴会がお開きになった後、ちょっと派手めのおねえさんのソアラで寮まで送ってもらったのを記憶しているくらいですので。

 

こうしてボクは無事、社会人としての最初の飲み会をクリアしたのでした。

 

つづく…