以前の資料
配属されて1年くらいが経ち、ようやく日々の担当する業務にも慣れてくると、だんだん周りが見えてきます。その頃になると、自分の担当しているルーティン業務だけだとマンネリ感が出てきて、つまらなくなるので何か自分なりにやり方を工夫して変えようという気になってくるものです。
店主は今思い返してみるとそういった気持ちがとても強い方で、常に「どうすれば速く、楽にできるか」を考えていました。
勤怠処理の仕事では、毎日数十枚の勤怠届を処理するわけですが、その届出用紙も入力作業をする前に、日付順、組織コード順、内容順に並べ替え、エラーリストへの転記作業のときにリストを行ったり来たりめくらずに済むように工夫をしました。
また毎月の給与の手当を変更する届出書の投入内容を、抜けモレが出ないよう、専用のノートを作って投入項目ごとにページを変えてまとめておいたりもしました。ひと通りやり方を教わった後は、工夫をして作業を少しでも少ない時間で効率的に、間違いを起こさないようにと心がけていました。
それでもルーティン作業での工夫はすぐにネタが尽きてしまいます。そうなると次には何か新しい仕事をしてみたいと考えるようになります。店主の入社した会社はやってみたいと手をあげるとわりと担当などに関わりなくやらせてくれる会社でした。当時はおおらかな時代で、かなり自由にやらせてくれました。
基本的に担当が決まっていないルーティン業務以外は、手をあげれば「じゃやってみて」ということになります。入社2年目の新人ですから、そんなにいろいろなことができる訳ではないのですが、あたたかく見守ってもらえていたんだと思います。
そんな初めての仕事にチャレンジするときに店主が心がけていたのは、歴史のある会社なので、同じようなことが過去にもあったはずと、必ず昔の資料がファイリングされているファイルをひっくり返して調べることからスタートするということでした。
従業員2千人の会社が30年以上も活動をしてきたのですから、それなりにさまざまなことが起こっていて、それに対してその時々で最適と判断して対応してきているはずです。まったく同じ内容でないにしろ、似たようなケースはたくさんあり、その対応が参考なることがほとんどといってもいいと思います。
経営学者のピータードラッカーも言っていることを後から知りましたが、(その本を探したのですが見つかりません)判断すべきことの9割以上は、同様のケースまたは同種のケースが過去にあり、それを参考にすれば事足りるそうで、リーダーは時間を有効に使うべく、残りの1割の判断や意思決定に十分に時間をかけるべきであるとのことです。
そのときに大切になってくるのは、しっかりしたファイリング。昔の会社だったからかも知れませんが、茶色に色あせた薄いコピー用紙に手書きされた書類がたくさんファイリングしてあり、それをめくっていくと、遠い存在の上司や噂にしか聞かない大昔の人々の仕事のやり方がビッシリ詰まっていました。
それは当時の店主にとってまるで教科書であり、参考書でした。何か調べ物をするために、ファイルをひっくりかえすと、思わず時間の経つのも忘れ、過去の書類をたくさん読み込むこともしばしば。でもそれが、どこにどういう過去の事例があるかのデータベースが頭の中に自然とできあがり、後から仕事をする上でとても役に立ちました。
それと同時に、とりあえずやらせてみるという当時の上司の懐の深さには、いまこのポジションになって改めて感謝しますし、自分もそうあらねばと思っていました。
つづく…