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人事屋修行記(第49話)

抵抗勢力

合併からまる1年がたった1998年の5月、初めての大規模な規定の整合となる国外出張の規定案が人事企画からわれわれ工場人事に説明されました。規定というのは紙面では数ページですが、その規定どおりに事務作業をすすめていくには、たくさんのプロセスを経ていく必要があります。

 

人事企画で規定を整合して完成させるまでの間にも、旧3社の部長級の人事のプロたちが、現状の規定をならべて考え方を整理し新しい規定案をつくり、労組と何度も協議を重ね、取扱いが不利益なものになったりしないか、改定によって人件費が必要以上に上がったりしないかなどを検討し、労使でコンセンサスを作り上げ、最後に経営会議で役員室から了解を取り付けるなど、気がとおくなるようなステップを踏んで熟成されてきます。

 

それでも現場の実務レベルに規定を落とし込んでいくと、またレベルの違った問題、課題がたくさん出てきます。通貨精算のときに使うレートはどのようなレートを使うのかなどといった重要な基準から、交際費でお客さんと食事をしたときの滞在費は支払うのか、クリーニング代は請求していいのかなどといった細かい部分まで、担当者が精算をしていくためには決めなければならないことが山のようにあります。

 

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それまでは、このような規定にあらわれていない細かい部分は大部分現場の判断にまかせていました。その結果、同じ規定を適用されながら、川崎工場と宮城の工場の人が一緒に出張に行ったときに取扱いが違ったりして問題になっていました。また、旧3社でも同じ規定の文言にも関わらず、取扱いの結果が違ったりしていました。

 

そんな問題をこれからの新しい会社では起こさないようにと店主は「運用内規」という、規定には書いていないけれども、判断に差異があってはいけない内容について、考え方を整理し、実務上問題がないかどうかを確認し、内規化していくことにしました。

 

人事企画から規定案の説明を受けると、その場で自分たちが納得の行くまで質問や議論をしていきます。規定の趣旨やそのように決めた背景、交渉の経緯までも確認し、まずは自分たちがしっかりと規定を納得して理解をし、自分たちのものにするのです。

 

それから各拠点の人事担当者を集めて、規定案をわれわれから説明し、実務で進めていくにあたって問題になるようなことや、疑問などについて聞き取っていきます。その会議ではほぼ例外なく山のように問題や課題がでてきますので、いったん出た内容をすべて受け取ってどのようにしていくべきか検討し、内規化していきます。その後、担当者に再度説明し問題がなければ、内規は完成。そして、職場説明とすすんでいきます。

 

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整合内容を工場人事の担当者へ説明すると、海外への出張をどのように取り扱うかという、たったこれだけの内容で驚くほどの問題が出てきました。クレジットカード使用を前提に考える旧会社もあれば、日本出発前に人事がドルを両替して出張者に仮払いをしている会社もありました。そんな課題について、同じ取扱い、事務フローにするために、どのようにあるべきかを考え、議論して決めていくのです。

 

親会社の100%子会社であった2社は、海外拠点が北米にしかなく、したがって出張の取扱いも北米前提で考えれば事足りていました。それに対して店主がいた会社はアジアにも早くから進出しており、顧客も世界中にいましたので、あらゆる国への出張すべてを網羅する必要があり、その前提ですべての仕組みが考えられ、またそのような問題に対するノウハウも細かな取扱いに詰まっていました。

 

われわれは将来のグローバル化も考え、どこの国への出張でも通用するルールを考え、提案をしていきました。しかし、今まで慣れ親しんだやり方を変えられると人間というものは非常にストレスを感じるらしく、担当者からも職場からもものすごい反発を受けました。

 

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特に精算時のレートについては、抵抗が激しく、何度も説明をひらいて納得してもらうように努めました。国外出張時に使うレートは、TTSレートといっていわば両替手数料込みの従業員が損をしないようにと選んだレートです。しかしながら、みなさんは細かい事例を持ち出して反対します。でもそのときに一番大切にしたのは、クレジットカードでどこの国の通貨でも従業員が損をしないように精算できるレートはどうあるべきかという点に論点を絞ることでした。

 

あれだけ反発を受けた精算レートですが、その後どこからも問題が出てこないことが、そのレート使用の合理性を裏付けてくれました。店主が組織で物事を変えることの難しさを実感した仕事でした。

 

つづく…