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IVY Note No.52

スーツの将来

ここ10数年でビジネススーツを取り巻く環境は激変したといえる。正確には「した」ではなく「している」という現在進行形が正しいかもしれない。

 

ことの発端は2005年、小泉内閣環境大臣であった小池百合子氏が冷房温度を上げて省エネ政策を推進するにあたり、夏場のビジネスウエアを軽装にするようキャンペーンを立ち上げたのだ。

 

この「クールビズ」は大当たりし、またたく間にわが国の職場に浸透していった。当時どこのオフィスの入り口にも「クールビス推進中。軽装で失礼します」などとステッカーなどが貼られていた。

 

クールビズのおかげで男性ビジネスパーソンはネクタイから解放された。羽田さんの省エネルックはあらたに半袖のセットアップを購入しなければならず、まったく流行らなかったが、ネクタイをしないだけというひき算のキャンペーンには世間のみんながのっかったのだ。

 

2011年の東日本大震災がこの流れをさらに加速させた。当初6月1日から9月末までだったクールビズ期間は、電力不足対応もあり官公庁主導で5月1日から10月末に拡大される。ところが気づいてみると電力不足が解消されてもネクタイ姿は戻ってこなかった。

 

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2010年代後半になると、大手企業が組織風土改革の一環としてビジネスウエアのカジュアル化に舵を切りはじめる。固さと信用が売りのメガバンクがスーツ着用のドレスコードを廃止するなど、世の中も変わったものだと感心したものであった。

 

そしてコロナによるリモートワークがダメ押しとなった。自宅にいてWeb会議や商談をするときまで、スーツ着用は不要では?という空気がながれ、イッキに仕事中の服装がカジュアルウエアに切替わったのである。

 

アフターコロナになってもスーツ着用の割合は、コロナ前には戻らないであろう。商談をする側、される側とも別にネクタイやスーツにこだわるといった感覚が、この2年でかなり薄れたことは確かである。

 

洋装は、カジュアル化の道をすすんでいる。明治時代に洋服が入ってきたばかりのころの写真などを見ると、いまのビジネススーツにくらべてかなりドレッシーなディテールや着こなしだ。

 

それが時代とともに徐々に機能性を重視したり簡素化したりして、カジュアルウエアに置き換わってきたのである。

 

この時代の流れは止めようがないので、これからもどんどんカジュアル化や機能性を重視した服装に変化していくことであろう。こうした流れの中で、今回のコロナによるリモートワークシフトは、ビジネスウエアに対する価値観を根底から変えるきっかけになったことはたしかである。

 

こうして振返ってみるとクールビスと称して、ワイシャツにウールのスラックス、革ぐつを身につける意味は何なのだろうと考えてしまう。どう考えてもスーツからネクタイと上着をひき算したとしか見えないのだが、その服装でなければならない必然性は思いあたらない。

 

スーツはネクタイをしめて、上着をはおるという完全な形で着るからこそ、スーツ本来の意味合いが表現され、その場所やシチュエーションにふさわしい価値が出てくるのだ。

 

であれば、服装のTPOの基本である「相手に不快感を与えない」をクリアできる、仕事がしやすい服装をチョイスした方がよほど合理的な気がする。

 

そしてスーツは、将来的に礼服などのように、ある程度かしこまったイベントなどのときのみ着る洋服になっていくのではないかと考えている。