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人事屋修行記(第66話)

協業

大手通勤機器メーカーとの事業譲受けの話が出る頃、それとは別に大きな案件がスタートしていました。ドイツの大手電気メーカーとのジョイントベンチャーで、エアバック用の部品を生産する会社を立ち上げることになりました。

 

社員は店主がいた会社からの出向者と派遣社員のみで構成され、場所は宮城の工場のひとつの建屋を貸与するという形でスタートしました。社長は店主がいた会社から派遣され、出向者15名ほどが製造部門を中心に仕事にあたっていました。

 

先方との協業をスタートするにあたり、その最後の話を詰めるのはやはりトップ同士の会談です。当時のわが社の社長は、親会社で専務までつとめた方で、グローバル経験の非常に豊かな人でした。

 

先方の自動車部品事業のトップ(その会社はすべての事業をあわせると従業員が40万人もいます)が来日するので、そのアテンドを含め、一週間ほどのおもてなしを検討してくれないかとのオーダーが社長から当時、店主の上司だった課長に飛びました。

 

海外からの重要来客の接待など初めての経験で、きちんとできるのかと心配していましたが、その上司はいろいろと調べたり研究したりして、あっさりスケジュールを作り上げました。

 

先方のトップは、夫人同伴で来日されるということで、東京でのビジネスの合間には、歌舞伎の観劇などもセットし、休日には京都の一日観光を入れ、おみやげは、着物姿の日本人形を準備しました。これは非常に満足をいただいた様子でした。

 

 

その後、そのお返しにということで、今度は、こちらの社長が夫婦でドイツに招待されることになりました。スケジュールが届くと、何度かパーティーも予定されています。

 

社長の奥さまから、欧州での公式なパーティーの場にどのような服装で出席すればいいのかという問いに、「民族衣装であれば差し支えないですし、かえって先方からは喜ばれると思いますので、着物をお召しになるのはいかがでしょうか」とのアドバイス。さすが、上司は専門領域だけでなく、知識の幅の広さに感心させられたのを今でも覚えています。

 

ドイツへの出張は、ご夫婦でファーストクラス、ひとり片道100万円でフライトしていただき、無事に成功しました。いまだにトップセールスというと、この社長の一連の仕事のスケール感に圧倒させられたことを思い出します。

 

つづく…