万年筆
「アイビーたるもの、持ち物や小物、アクセサリーなどにもコダワリをもち、十分に吟味したお気に入りの一品を使わなければいけない」当時のアイビー教科書などには、このような訓示がいたるところに掲載され、店主らは若い時分から洗脳をされていた。
なかでも筆記用具というのは、社会人のみならず学生でも日常づかいをする身近な存在であり、とっつきやすかった。
学生の身分でそんなに高価な筆記具を手に入れることなど到底無理な話なのだが、万年筆というものは、なんとなく大人の感じがして、シャープペンやボールペンにくらべると、安価なブランドものを手に入れることができた。
店主も学生のころからモンブランの廉価版を入手しては使っていたのだが、万年筆で字を書くと数段上手になったような感じがするのがとても気に入っていた。
企画職
会社勤めになっても、日常づかいの定番はボールペンとシャープペンである。万年筆は字を書くこと自体が目的化する筆記具なので、年賀状など書く際には、万年筆を使ってはよろこんでいた。
そんなことで、細々と万年筆を使っていたのだが、2000年代後半に人事異動で企画職になってからは、状況が一変した。ストレスのない筆記具が必要になってきたのだ。
店主は、役員をレポートラインに持つ経営に近いポジションで人事企画を担当した。上司からは、ざっくりとした課題感と方針が示され、それに基づいて最適な手段を具体的に検討していくのである。
人事企画に異動してから、仕事のやり方は180度変わった。部署や上司とのミーティング以外は、基本的にアイデアを練ったり、調べ物をしたり、それらを資料にまとめたりと1人仕事がほとんどになった。
そのなかでもアイデアを練るときには、午前中いっぱいは会議室にこもり、大学ノートにキーワードや思考のプロセスを書きとめながら考えをめぐらせるのである。
そのとき重要なのが、筆記具とノートなのだ。最初いろいろと試行錯誤していたのだが、最終的に万年筆とアピカのノートに落ち着いた。
書きやすさ
万年筆が書きやすく、長時間書いても疲れず、たくさんの文字を書くのに適しているのは知っていた。しかしここにきて書くことが職業ではないものの、書きやすさが重要になってきたのだ。
ペンが走るように書くことができると、それだけでリズムが生まれるような感じがして、テンポよく文字を書くことができる。そのテンポの良さがなんとも心地いいのである。
思考を止めない
もうひとつ大切なのは、考えをめぐらしながら書きとめているので、考えることに集中できることである。いい筆記具は気分よく書け、ストレスがないので、思考のリズムを止めることもないのである。
なので、万年筆との相性のいい紙をチョイスすることも重要になってくる。なめらかな書き心地はもちろん、紙面の大きさや罫線などもあわせストレスのない環境をつくることが大切だと考えている。
ノートは、アピカの「プレミアムCDノート」のA4版、方眼罫をずっと使い続けている。この筆記用紙の書き心地は抜群である。
あこがれの1本
万年筆はパーカーの「デュオフォールド」を使っている。大好きな司馬遼太郎さんが愛用していたと聞いて手に入れた。
ふだん使いには少々大きすぎるボディに感じるのだが、その分安定感があり、大量の文字を書くにはすぐれている。
書くことが楽しくなる筆記具というのは、ツールとしてとてもすばらしい。それにプラスして、アイデアの抽出を助けてくれるのだから、この1本とはずっとお付き合いしていくことになるだろう。