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人事屋修行記(第140話)

本部長交代

前々職の会社は、大手自動車会社系列の部品メーカーで、規模もグループ内では一番大きかったので、主要な役員は親会社から転籍してくることが通例となっていました。ポジションとしては社長以外に番頭役の管理本部長、クルマの性能を左右する機能部品を手がけているため開発本部長は必須でした。

 

2013年当時店主の上司である管理本部長は59才、年度が変わる4月には後任が来るだろうと考えていたところ、予定どおりに後任の執行役員管理本部長の人事が2月の定期人事異動で発表されました。来ることになった上司は、親会社の関連会社室の室長で55才、60才定年まで4年の短期政権です。

 

交代する現在の管理本部長は専務取締役で59才、当然このタイミングで交代だと誰もが考えていたところ、管理本部長は外れるものの、子会社の社長を兼務して管理担当専務として1年間残ることになりました。

 

これには社内に激震が走りました。この専務は、頭の回転がものすごく切れる人物で、なにごとを判断するときも合理的であり、かつ物言いがハッキリしていて、社内では話しの通じない堅物と恐れられていました。よく思っていない連中は、いなくなる日を指折り数えて待っていたものですから、その落胆振りは相当なものでした。

 

 

周囲の評判とは裏腹に、理屈が合っていれば、変な政治的なことで判断がぶれない人ででしたから店主としては仕事は進めやすく、つねに判断をその場でしてくれたので楽でした。結構鍛えられはしたものの、気が合わないということはなく、1年間院政をひいて残ってくれるのは新しい本部長がどのような人物かわからない段階では、かえって都合がいいと感じたくらいでした。

 

新しい本部長は、親会社の経理畑出身としてはめずらしく高卒で、営業拠点の経理担当などの実務からのたたき上げの方でした。学歴がない分、その実力は相当なものだろうと予想していて、関係会社室長時代には、グループ会社の大リストラを親会社の窓口として断行し、成果を出していたことも聞こえてきました。

 

4月1日の転籍と同時に出社してきた新しい上司は、ボクらのそんなイメージとはまったく正反対のおだやかで気さくな、そして無類のギャンブル好きの身長の小さなオジサンでした。あたり前の話ではあるものの、勝手にイメージがどんどんふくらんで行っていたので、結構なギャップにみんなで思わず目を合わせてしまったほどでした。

 

こうして、店主の前々職時代最後の上司とのお付き合いがスタートしたのでした。

 

つづく…