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人事屋修行記(第160話)

プロジェクト(4)

年末年始の休みは、大みそかと三が日以外は毎日個別相談窓口を開きました。大勢が参加する説明会では他人のいる前でなかなか聞きづらかったり、一旦説明を聞いて理解したつもりでも、自宅に帰ってゆっくり考えてみると、さまざまな疑問が浮かんできたりする社員も多いだろうということで、希望者の相談を個別に受け付けることにしました。

 

場所は、研究所に併設している研修施設の会議室と、周囲の視線が気になる人もいるかもしれないということで、あえてクルマで1時間かかる仙台駅前の貸会議室を会場にしました。

 

そんなに来る人は多くないであろうという当初の予想に反し、毎日10名近い社員が相談に訪れ、具体的な取扱いの詳細を確認したり、割増退職金の概算金額を計算してほしいといった相談をしていきました。

 

なかには、説明会で店主やリクルートのキャリアカウンセラーの話を聞き、自分が今後本当に会社に残るべきなのかどうか、を考え悩み、その判断の後押しをしてほしいといった感じの相談をしてくる社員もいました。

 

 

50才くらいの組み立てラインに勤務するというその女性は、地元の高校を卒業し新卒定期採用で入社。30年以上もコツコツと一生懸命に働いてきて、定年まで働くつもりでいたものの、説明会で今後会社が大きく変わっていこうとする中で、自分がその変化後の役割をはたせるか自信がなく、そうであればこのタイミングで辞めるべきではないのか、と悩んでいると涙ながらに話をするのでした。

 

店主はしっかりと話を聴くことに徹しました。そして、話を聴きながらこの半月間ずっと説明してきたことが、一部の社員だけかもしれないけれど伝わっているということを実感しました。これまで説明したストーリーと内容は、だれが考えた内容でもなく、店主が自分で考え抜いた内容であり、本気で信じていたものでした。

 

会社に残るのも変革への厳しい道のりが待っていますし、転身もうまくいく保証はまったくない、そんな中での意思決定をしてもらうときに、もっとも大事にしたことは、会社側の実行責任者である店主自身が本気でこの仕事に向き合うということでした。

 

社員に痛みを伴う協力をお願いするのだから、目標を達成して当初の目的である体質を改善し、業績回復を必ず実現しなければならない。そうでなければ今回のプログラムで辞めていった社員の意思決定と行動は意味がなくなってしまう、そんなプレッシャーは結構なものでした。

 

つづく…