プロジェクト(6)
早期退職の応募者は4百名の目標人数に対して、260人ほどしか応募がありませんでした。店主としてはある程度想定内の数字だったので、さてこれからどうやって数字を積んでいくかと考えていると、プロジェクトを一緒にやっていた元生産企画の執行役員が困り果てた顔でやってきて、もうダメだ、と思い詰めた表情で自分を責めていました。
それに対し、店主は明るく「大丈夫、この数字は想定の範囲内。これからが勝負で、きっと目標の4百名は達成できるから。みんなで一緒にがんばっていきましょう」というようなことを言って、次のステップに向けた対応案の話し合いをスタートさせたそうです。
そのときのことは店主自身、正直あまり覚えていないのですが、プロジェクトが終わったあとにメンバーで飲んだとにき前述の執行役員から言われたことが印象に残っています。
「あのとき赤坂はそう言って前向きに次の手を考え始めた。自分たちエンジニアは、仕事で常に顧客からのコストや品質や納期などの厳しい要求への対応を求められてきた。なので正直、顧客要求のない管理系の仕事は楽なもんだと、どこかでバカにしてきた。でもあのとき自分の考え方が間違っていたとわかった。会社の経営に直接かかわるような重大で困難な場面でも、動揺せずに次の手を考えられる腹の座り方が必要なんだと」
結局、募集期間を半月間延長し、もう一度全社員を対象に説明会キャラバンを行いていねいな説明を重ね、会社が置かれた状況とそれを受けて社員ひとり一人が働き方を具体的にどのように変えて行かなければならないかを伝えていきました。もちろん説明会の対応は、いまままでどおりのメンバーのみで進めて行きました。
応募者は毎日少しずつではありましたが人数が増えていき、2月初旬の〆切日の午前中にとうとう4百名に達したのでした。店主は午前中に速報のメールを受け取り、ホッとして今まで張りつめていたプレッシャーから解放されました。そして昼食を終え、午後の勤務開始のチャイムと同時に栃木の研究所の人事を担当していた、川崎工場に新卒で配属されたときの直属の先輩に申請書を渡したのでした。
つづく…