大卒製造職
同じメーカーでも作っているモノが違うと、製造要員に対する考え方も違うということを転職して強く感じさせられた。
自動車部品メーカーでは、生産効率や品質保証の観点から徹底的に製造ラインが造りこまれていて、作業者は非正規雇用が基本だった。要するに誰が作業を行っても作業標準を守る限り、同じ時間で同じ品質のモノができる、という思想である。
なので、人件費の圧縮をねらい、有期雇用の期間社員や製造派遣を確保して、配置していく。正規社員もちらほらといるが、基本は新卒者が製造工程の理解や習熟のためにラインに入っているか、ラインスタッフ職かのどちらかだ。
一方で転職先の化学メーカーでは、製造ラインも基本はあくまで正社員であり、派遣社員はどうしても人のやりくりが付かない場合の緊急避難的に採用、配置していた。根底には圧倒的な製品の利益率の差があり、人件費も含めた原価低減が動機づけされていないというように店主は見ていた。
製造要員は正社員として、つねに募集をかけており、人事部長としてかなりの時間を面接に費やしていた。しかし大手メーカーの工場がひしめき合う栃木県では、働く場所に困ることはなく、正社員待遇でさえ採用することは非常に厳しい状況であった。
製造要員の新卒採用も当然毎年実施していたが、製造現場からは優秀な人材が確保できてないといった声が上がっていた。対象を県内の工業高校に限定して採用しているので、そもそもの母数が少なく、優良メーカーとの争奪戦で負けていたのだ。
中途採用においては、同業種の経験はとくに必須要件としていなかった。製造部長や生産企画部長にくわしく話を聴いていくと、やはり工業高校卒の専門知識はとくに必要ないとのこと。いままでのやり方をそのまま踏襲しているだけの採用だったのだ。
なので店主は逆転の発想で、大卒文系にターゲットを定め、製造職を採用してみてはどうか?というアイデアを持ちかけてみることに。理由はおもに2つ。ひとつは東証1部上場の看板と、大卒としての給与水準を提示できるので、文系で就活に苦戦している層に遡及できること。2つ目は地元志向の文系学生であれば、地場の中小との競争で勝負できるのではないか?ということであった。
さらに将来の製造ラインのIOT化などを見据えると、製造職はこれまでのように単なる作業者ではなく、革新的な生産方法にトライしていくための、モノづくりを熟知したリーダーシップの発揮できる人材でなければならないと考えたのだ。
こうした提案に製造部長以下の関係者は目を丸くしていた。しかし工業高校卒の質の低下を実感していることもあり、とりあえずやってみようということになり、大卒製造職の採用は経営会議のOKも取り付け、スタートさせることとなったのであった。