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IVYおじさんの創業日誌

ベースアップ

最近クライアント企業からベースアップと初任給改定のご相談をいただいた。本格的にベア実施のために賃金テーブルを書き換える作業は実に25年ぶりである。そこであらためて基本に立ち返ることにした。

 

一般的に賃金水準の決定要素は以下の4つから構成されると言われている。まず「支払能力」である事業で創出した付加価値である。要するに稼ぎ出した、かつ今後も稼ぎ出せる利益だ。ない袖は振れない。

 

2つ目は「市場価格」といわれる賃金相場である。労働力にも採用・応募といった市場が存在するので、需要と供給のバランスによって決定される。

 

3つ目には「物価上昇」があげられる。失われた30年とはよく言ったものだが、わが国は長年デフレが続き、モノやサービスの値段が上がらなかった。なので、賃金水準を引き上げるという動機が働かず、賃金水準は横ばいをたどってきた。

 

そして最後は「労使交渉」である。労働組合が存在する場合には労使による交渉によって、前述の3つの要素に加え、水準決定に影響を及ぼす。

 

 

この要素をどのように組み立てていくかであるが、ざっくりいうと以下のストーリーとなるであろう。

 

まず、物価上昇を考慮し実質賃金がマイナスとならないよう補正する。その上で初任給をはじめとする賃金体系全体が、市場価格となっているかを検証する。とくに初任給に関しては、同業他社だけではなく、新卒採用市場全体と比較して見劣りのしない水準とする必要がある。

 

報酬はハーズバーグの二要因理論における「衛生要因」に該当し、必要以上の付与に効果はないものの、必要な水準を満たしていない場合、マイナス動機づけにつながる(=離職や就職企業の選択肢から外れる)おそれがある。


これらで検討した報酬水準を実現するための付加価値(支払い能力)を創出しているか、今後も持続的に創出していけるか、近い将来の景気動向も踏まえて総合的に判断していく。

 

ロジックはこうなのだが、実際に賃金テーブルを書き換え始めると事はそんなに簡単ではない。

 

多くの企業では何らかの基準で社員の価値を格付し、等級やグレードといった形で体系化している。賃金テーブルはその格付に紐づく形で設定されている。

 

たとえばベアを3%行おうとした場合、すべての等級を3%ずつ引き上げると元の金額が大きい上位等級ほど絶対額が大きくなり、等級間の格差が広がってしまう。

 

なので本来は基本等級一律で定額を引き上げるか、貨幣価値の相対的な下落割合を考慮し、その分だけ等級間格差を広げてやるのが、賃金体系全体のバランスの観点から望ましい。要するに課長クラスは初任給の何倍といったバランスをキープするというものである。

 

ただし、わが国の職位ごとの賃金格差は世界各国と比較しておどろくほど小さいので、意識的に上位等級に振り分ける政策的な検討も必要だ。

 

しかし実態としては原資が限られていること、さらに人出不足に対する採用力強化のために初任給を大幅に引上げ、上位等級に行くほどベア率を圧縮し、傾斜をつけることによって、予算内に収めるということになる。

 

これは何年か続けると仕組みが破綻する。等級間格差がどんどん縮まっていくのは一目瞭然である。

 

理想はやはり初任給引上げの絶対額以上のベアを上位等級でも行っていくこと。これに尽きるのである。そのためにも支払原資をしっかりと稼ぐことがもっとも大切なのである。ビジネスの基本に立ち返るのであった。