ヘッドハンター
転職した化学メーカーでは、部長以上クラスのキャリア採用を積極的に行っていた。製品開発や製造といった機能では、競争力のある人材はいたのだが、大手メーカーの子会社からスピンアウトして上場したので、本社機能を担える人材がそもそもいなかった。
またエンジニアにおいても、新規事業分野などにおいては、ピンポイントな技術領域で盛んに採用していた。内部に適任者がいなければ外部から採用する、という極めて合理的な思想を経営者が持っていたためだ。
このあたり前の光景、店主としてはかなり新鮮であった。前職の自動車部品メーカーでは、管理職以上の採用はほとんどなかったといってよかった。もし必要ならば、親会社にお願いして派遣してもらえばいいという空気であった。
そこが組織ニーズと人材の最適化という観点では、かなりミスマッチが起きていて、その結果さまざまな弊害や組織の弱体化を引き起こす結果となっていたのだが、純粋培養の経営幹部にはその世間から見た非常識が理解できなかった。
そんな状況の会社において、キャリア採用の現場で知り合ったのが、敏腕ヘッドハンターであった。元々店主が入社する前から、採用現場ではつながっていて、求人案件が出ると、真っ先に相談する先のひとつであった。
彼とお付き合いしてみてまず感じたのは、とにかくニーズの把握が速くて、的確ということ。そして、エンジニアなどの場合には、業界と技術にとても詳しいのであった。
あるデバイスやそれにまつわる要素技術を持ったエンジニアが欲しい、などと伝えると、その界隈のエンジニアは、A社とB社といったように、すぐに電子部品メーカーなどの名前があがる。しかも名前だけでなく、該当の組織はいまどんな状態で、転職に興味を示す確率まで伝えてくれる。
店主の部下などは、「採用担当部長」などと呼び、まるで社内の他部門にお願いでもするような感覚でお付き合いさせていただいた。
店主は採用に限らず、社外の協力会社やメンバーと一緒に仕事をするとき、同じ目的をもった仕事仲間として接し、コミュニケーションをとることが、成功の秘訣だと考えている。
たまに発注者、受注者といった関係性を前面に出して、上下関係を作り出して気分よさそうにしている人を見かけるが、これはまったくのナンセンスだ。
そんな関係性ではうまくいくこともいかない。同じチームのメンバーとして、一緒になって考え、汗をかいて目標達成に向けてチームで仕事をしていくことが、成功のカギである。
そんな敏腕ヘッドハンターの彼とは、退職後もずっと友だち付き合いさせていただいている。
仕事で出会ったからこそ、仕事を通じて気づき上げた信頼関係は、簡単に崩れることはない。社外の方だと、仕事の付き合いがなくなっても関係性が続くことが多い。これこそ強固な信頼関係の証だと思うのであった。