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人事屋修行記(第189話)

事業切出し

前職の化学メーカーは大手電機メーカーの子会社同士が合併などを繰り返していた。その結果製品や要素技術でシナジーを生むどころか逆にリソースが分散してしまうという課題感を持ち続けていた。

 

その中でも本業のケミカルではないデバイス領域の工場は、建設からかなりの年月が経ち、設備や建屋の更新に莫大な費用がかかるようになっていた。そのため以前から子会社化や事業の売却などという話が持ち上がっては消えたりしていた。

 

店主はそれまで自社合併と事業の譲り受けを2回ほど経験していたので事業の切り出しのむずかしさを理解しているつもりであった。生半可な計画と実行力では目論見どうりの成果が出ないどころか逆に負の遺産となってしまう。

 

そんなところに以前付き合いのあった製造派遣の営業さんが店主が転職したことを聞きつけたずねてきた。いつものように世間話や最近のトピックなど情報交換をしていると、工場の製造ラインを社員付きで切り出し派遣会社とのジョイベンで製造請負の会社を立ち上げ、ビジネスは継続したまま社員を切り出せる社員とビジネスを切り出せるスキームを専門にしているグループ会社があるという。

 

そんなにおいしい話があるのかと疑問に思ったが、よくよく話を聞いてみると事業を切り出したいメーカー側の顧客への供給責任を果たしつつ、ビジネスと社員を切り出せる点、製造派遣会社は製造業務に精通した人材を確保できる点、そして働いている社員は仕事の場所も周りのメンバーがまったく変わらず働き続けられる点という三者がお互いにウィンウィンであるということなのだ。

 

 

ビジネス切り出しの件を聞いていた店主はこれだ!と思いもっと詳しく話を聞くことにした。その後実際にそのスキームを活用してジョイントベンチャーの会社を立ち上げた工場にも見学に行きアイディアをあたためていた。

 

そんなところに役員から前述の事業を子会社化したいのだけど何かいい方法はないか?と言う相談が。チャンス到来とばかりに温めていたアイディアを説明した。そのときはあまり興味を示さなかったのだが、しばらく経つとこの話をもっと詳しく聞かせろということに。その後あっという間にプロジェクトがスタートしたのであった。

 

店主はプロジェクトにも参加していたのだが事情で途中から抜けることになり、店主抜きで進んでいった。後から聞いた話だと計画は見事に成功し、ジョイントベンチャーの会社が立ち上がったという。

 

その後、このスキームは融資先の立て直しなどを検討しているメガバンクなどから多くの問い合わせがあったそうだ。

 

その後どの程度効果が出たのか店主は知る由もないが、おかしな経営をして迷走してしまうくらいなのであれば、ステークホルダーすべてにとってメリットが大きく、それほどデメリットはないのではないかと考えている。

 

メーカーの工場は地方にあることが多い。そこで働く社員は兼業農家などをやっていることも多く、安定した収入とあまり変化しない仕事仲間と環境がとても重要なのである。そのような働く人たちにとってビジネス上の都合により変化を受け入れなければならないというのはとても苦痛を伴うことが多い。そういった観点から考えるとなかなかいいスキームであると考えている。今はどんな状態になっているのか聞いてみたいものである。