BLP研修
人事制度を見直した後に残った人事領域における最大の課題は、次世代経営人材の育成であった。社長サクセッションは交代直後に社長から一番にお願いされていたが、それを考える上でも、10年後の社長候補育成とあわせ、マネジメント層のレベルアップを行わなければならなかった。
人事制度の見直しと並行し、とくに課題感の大きかった昇格制度については、外部によるアセスメントセンター方式での昇格審査を導入し、トライアルも含めて回数を積み重ねてきた。店主が入社して丸3年、アセスもかなり社内に定着しつつあった。現役の部課長のうち優秀者についてはアセスの結果データの蓄積もできていた。
それら実績から得られたデータを分析し仮説を立て、さらに社長や取締役の課題感をヒアリングし検証して、課題設定を行った。
課題の中で一番大きかったのは、「意思決定力」と「戦略的思考」であった。たしかに店主が入社してからの違和感も実はそこにあった。社内の会議に参加していると、ほとんどの部長さんが決めないのである。
ディスカッションを重ね真の原因にたどり着き、対応案についても参加者の合意形成が取れているのだが、最後に自ら決めないのである。そのようなシチュエーションで必ず出る言葉は「役員に相談します」であった。
また全社中期経営計画からブレークダウンさせた各部門の中計と、それを実行するための単年度計画について、これらを戦略を立てて策定、実行し、その結果を踏まえ中計をバージョンアップしてくというPDCAサイクルがほとんど意識されていなかった。
これらの課題は大手電機メーカーの子会社であった期間が長かったことに起因していると考えていた。一人ひとりの能力は決して低くないものの、「戦略は親会社が決めるから子会社は親会社が決めたやるべきことを粛々とやっていればいい」という環境であったため、決めた経験がないのだ。
しかし独立して上場を果たした当時、それでは許されない。自らの足で進み、なおかつその方向とゴールをステークホルダーに対して説明し、実行して行くことが求められているのだ。
そんな課題感を設定した選抜型の次世代リーダー研修は、「BLP(Business leadership program)」と命名され、外部研修会社に依頼し、アクションラーニング方式で実施することになった。
選抜メンバーはアセスなどの結果と直近の活躍度合い、そして今後の各部門のキーパーソンと目される人材を、人事がピックアップし役員会の承認を得て決定した。
店主は初回研修にオブザーブして、グループワークなど参加者の状況をつぶさに観察していった。そこで見られたのはやはり「決めない」という参加者の行動であった。
店主の仮説は的中であったと言っていい。研修設計については成功だが、やはり今後の組織運営を考えると複雑な心境であった。しかし、まずは課題に対して一歩踏み出すことができたと考えるようにして初回研修を終えた。
人事制度の見直しや、この研修の成果はよくわからない。人材育成は10年単位での仕事である。しかし、当時の会社が今回の決算では営業利益率約35%を稼ぎ、年間配当は1株174円となっている。この結果になんらかの影響を与えたと、いまは勝手に考えているのであった。