驚くほど伝わっていない「言ったはず」の落とし穴
資料をていねいに作り込み、時間をかけて説明し、質疑応答の時間も設けた。これで完璧だ、そう思っていたのに、いざ蓋を開けてみれば、部下から飛んでくる質問は全く見当違い。頭を抱え、「一体これまでの時間は何だったんだ」と愕然とした経験はないだろうか。
あるいは、会議中に議論がどうも噛み合わない。よくよく掘り下げてみると、そもそも最初の説明が全く伝わっていなかった、なんてことも。
これらは、マネージャーになった人なら「あるある」だと頷いてくれることだろう。優秀で、物事を素早く理解し、行間まで読み取る力に長けているからこそ、今のポジションにいる。そうした読者のみなさんは、「なぜこんな簡単なことが理解できないんだ」「分からないなら、なぜ質問しないんだ」と、部下に対して歯がゆさを感じるかもしれない。
しかし、ここで一度立ち止まって、部下の気持ちになって考えてみてほしい。
職場において、自分の働きぶりは評価や給与、さらには将来のキャリアにまで影響を及ぼす。そうした環境で、「こんなことも分からないのか」と思われたい人はいない。「劣っている」と見なされるのは、誰にとっても恥ずかしく、嫌な気持ちだ。この「恥をかきたくない」という気持ちは、誰しもが持っている。

だからこそ、部下は分からないことがあっても、正直に「理解できていません」と伝えることを躊躇する。ましてや、優秀な上司に「質問する」という行為は、自分の無知をさらけ出すことだと感じてしまう。その結果、どうなるか。
部下は「分かりました」「大丈夫です」と返事をする。しかし、その裏側では、理解できていない部分を、自分の経験や知識を総動員して「おそらくこういうことだろう」と想像で補い、認識を構築していく。そして、その想像に基づき、指示されたミッションを遂行しようと動き出す。この時点で、上司である読者の意図とは、大きくズレた認識になっているわけだ。
心理的安全性の高い職場を築くことが、根本的な解決策であることは間違いない。しかし、それだけでは不十分だ。なぜなら、どれだけ環境を整えても、コミュニケーションの場面では、相手は「恥をかきたくない」という気持ちを少なからず持っているからだ。
だからこそ、私たちは「自分の意図は簡単に伝わらない」という前提に立つ必要がある。そして、部下が「恥ずかしい」と感じるであろう気持ちを汲み取り、相手の目線に立ったコミュニケーションを心がけること。これこそが、マネジメントにおいて不可欠な視点だ。
店主も過去、何度もこの落とし穴にハマってきた。自分の説明が不十分だったことに気づかず、「なぜだ?」と部下を責めてしまったこともあった。しかし、大切なのは「同じものを見ても、自分と他人とでは認識が違う」という事実を肝に銘じることだ。
部下の言葉や行動の背景にある「気持ち」にフォーカスすることで、見えてくる世界はまったく変わってくる。一方的に指示を出すのではなく、相手がどう捉えているかを確認し、寄り添い、共に進む姿勢。これが、あなたの言葉を部下の心にしっかりと届ける鍵となる。
部下は読者のみなさんが思っている以上に、上司の言葉を真摯に受け止めようとしている。だからこそ、その気持ちを汲み取り、彼らが安心して「分かりません」と言えるような関係を築いていきたい。その小さな一歩が、きっと大きな成果を生む組織づくりのスタートである。