部下があなたの期待どおりに動かない本当の理由
よくある話である。とくに、仕事の目標(QCD、つまり品質・コスト・納期)を明確に伝え、やるべきことを論理的に説明したにもかかわらず、部下が動かない、あるいは的外れな行動をとる、といったケースだ。上司としては「能力が足りないのか」「やる気がないのか」と、まず部下側の問題として捉えがちだ。
しかし、本当にそうだろうか? 部下があなたの期待通りに動かない時、その原因の多くは、実は上司であるあなたの側にある。ちなみに優秀な部下は「期待どおりに動いてくれる」ではないか?と切り返す気持ちはわかる。しかしこれはあなたの足りない部分をその優秀な部下が補ってくれているに過ぎない。
「期待どおり」に動いてくれない原因を整理すると、
- 単純な能力不足:これは見立てが悪い、上司の部下理解力に問題があった、ということになる。
- コミュニケーションの仕方が悪い:上司の伝え方や態度が、部下の行動意欲を削いでいるケース。
- そもそも期待が伝わっていない:「期待どおり」と言っているが、その期待自体が、部下が理解できるように具体的に伝えられていない。
この中でも、特にマネジメントの盲点となりやすいのが2番目の「コミュニケーションの仕方が悪い」という点だ。
たとえば、若手社員であるA君に、重要な顧客への提案資料作成を依頼した。期日や盛り込むべき内容は、あなたなりに完璧な「ロジック」で伝えたつもりだ。しかし、仕上がってきた資料は、どうにも覇気がない。必要最低限のデータは揃っているが、熱意も工夫も見られない。
「なぜだ。あれほど論理的に、この提案が会社とA君自身の成長にどれほど重要か説明したのに」と、イライラする。

実は、A君は資料作成の依頼を受けた際、上司の表情が硬く、言葉の端々に「これは面倒な仕事だ」という雰囲気を感じ取っていたという。
「課長が、いかにも忙しそうで、機嫌が悪そうだったので、『これは早く終わらせてしまわないと』という焦りだけが先立ちました。中身を突き詰めるよりも、形式を整えることだけを考えてしまいました」とA君は言った。
これは、上司がA君に対して、仕事の「論理」(重要性、必要性)は伝えたが、それに伴う「感情」への配慮を欠いていた典型的な例だ。上司の焦りや不機嫌さが、A君の「これをやり遂げるぞ」というポジティブな感情や、内発的な動機を削いでしまったのだ。
人の行動は、AIへの指示(インプットとアウトプットの関係)のように、論理だけで動くほど単純ではない。
人間は、まず「感情」に基づき行動の引き金を引き、その後で「論理」でそれを正当化しようとする生き物だ。A君の場合、「上司が不機嫌」という感情的なインプットが、「早く終わらせる」という行動に繋がり、「最低限の作業で済ませる」という論理でその行動を正当化してしまった。
行動の推進力であるモチベーションは、楽しさ、興味、達成感への欲求といった内側から湧き出る感情に支えられている。上司の態度や言葉が、その感情を「不安」「焦り」「義務感」といったネガティブなものにすり替えてしまえば、部下の行動は、期待どおりどころか、最低限の「言われたことをこなす」だけのものになってしまう。
このケースから、部下に何かを依頼する際、言葉で伝える「内容(論理)」と同じくらい、その時の「気持ち(感情)」が伝わる非言語的なインプットに注意を払う必要があることがわかる。
部下に動いてもらうためには、単に「なぜこの仕事が必要か」という論理(納得)を伝えるだけでなく、「あなたがやってくれると助かる」「あなたの成長にとって意味がある」といった、相手の気持ちに働きかける感情(共感)のメッセージを添えることが不可欠だ。
部下の表情や仕草、雰囲気に気を配り、「この依頼は負担になっていないか」「何か不安を感じていないか」という相手の感情の状況を読み取りながら、言葉をかける。
行動は、まず感情によってスタートや加速をし、その後に論理で方向付けられる。マネージャーとして「期待どおりに動いてほしい」と考えるなら、まず部下の心に火を灯すような、温かい「感情のインプット」を意識しなければならない。「気持ちのマネジメント」の基本のひとつなのだ。