異文化コミュニケーション研修
最近、クライアントから人間関係のトラブルについて相談を受けることが多い。話を聞いていくと、その根っこには「多様性への配慮のなさ」があるのではないかと感じることがある。これは大げさかもしれないが、自分とは違うスタイルを持つ他者への想像力の欠如と言い換えてもいいかもしれない。
店主が自動車部品メーカーの会社員だったとき、グローバル展開を進めており、幹部社員が異文化コミュニケーション研修を受けることになった。丸2日間の研修は、外国人講師が参加者と掛け合いをしながら進めるユニークなもので、今でも鮮明に記憶に残っている。
その研修では、国や民族による文化の違いを7つの軸で比較し、マップ化することで互いの違いを理解するという手法が取られた。その7つの軸とは、次のようなものであった。
- 会議スタイル(ソクラテス式 vs. 孔子式):議論の進め方の違い
- メッセージの伝え方(低コンテクスト vs. 高コンテクスト):言葉に頼るか、空気を読むか
- 時間感覚:時間やスケジュールに対する柔軟性の違い
- 人間関係:信頼を得るために何を大切にするか
- 責任範囲(テトリス式 vs. アメーバー式):指示されたことだけをやるか、自律的に隙間を埋めるか
- 権力格差:組織がフラットか、トップダウンか
- 平等の演出:立場の違いがある相手と、あえて対等に振る舞うか、謙遜するか
これらの軸を通して、自分たちのあたり前が、他の文化ではあたり前ではないことを学んだ。この経験が、最近のクライアントとの会話の中で、ふと蘇ってきたのだ。

議論が噛み合わないのは「スタイルの違い」が原因かもしれない
特に興味深かったのが、一つ目の「会議スタイル」の違いだ。研修では「ラグビースタイル」と「ゴルフスタイル」という、分かりやすい比喩で説明された。
ラグビースタイルは、まさにラグビーの試合そのものだ。一つのボール(議題)をめぐって、参加者は誰に指名されるでもなく、積極的に議論に割って入る。時には人の発言に被せてでも自分の意見を主張し、議論を前に進めようとする。アメリカのビジネスシーンを想像すると分かりやすいかもしれない。
一方、ゴルフスタイルは、1人のプレイヤーが打つまで、他のプレイヤーが静かに待つゴルフのようだ。会議では、1人が話している間は、他の参加者は静かに耳を傾ける。その人の発言が終わってから、挙手をして司会者に指名されて初めて発言の機会を得る。日本の多くの会議はこちらのスタイルに近いだろう。
重要なのは、どちらが良いとか悪いとかいう話ではない、ということだ。会議の進め方ひとつとっても、これだけの違いが存在するという事実である。そしてこの違いは、国や文化だけでなく、同じ社会の中でも、世代や育った環境、あるいは最初に就職した会社の「社風」によっても生まれる。
あるクライアントから相談を受けた時、まさにこの「ラグビー」と「ゴルフ」のすれ違いが起きているのではと感じた。ラグビースタイルの上司が、ゴルフスタイルの部下に対して「なぜ積極的に発言しないんだ」と苛立ち、部下は「自分の話を聴いてくれない」と感じてしまう。

もし、お互いがこの「スタイルの違い」という概念を知っていればどうだろうか。「あの人はラグビースタイルの人だから、意見があればどんどん言っていいんだな」とか、「彼はゴルフスタイルだから、少し待ってから話を振ってあげよう」といった配慮が生まれるかもしれない。
しかし、この違いを知らなければ、「自分のスタイルが正義」となり、相手のスタイルを一方的に否定してしまう。「あいつはやる気がない」「あの人は空気が読めない」といった、誤解やストレスの原因になるのだ。
日本でも多様な価値観が尊重される時代になった。店主のような昭和世代と、平成、さらにはやがて職場に現れるであろう令和世代とでは、育ってきた環境も価値観も大きく異なる。異文化コミュニケーションを学ぶことは、何も海外の人と付き合うためだけのものではない。身近な人との間にある「見えない壁」を乗り越えるためのヒントを与えてくれる。
相手のスタイルを理解しようと努めること。それが、多様性を尊重する第一歩であり、より良い人間関係を築くための鍵になるのではないだろうか。そんなことを、クライアントとの対話を通じて改めて感じたのだった。