「納得しないけどあなたの言うことならやります」という信頼の形
これは組織で働く中で頻繁に起きるやりとりである。上司と部下、あるいは部門間の担当者同士など、日常のコミュニケーションに携わる人すべてが対象となる。マネジメントや社内調整で避けられない「お願い」を成立させる鍵が信頼にあるからだ。どのように進めるかは、日頃からの関係づくりがすべてを左右する。
納得とは、他人の考えや行為を「もっともだ」と心から認め、腹落ちする受容の状態を指す。だが現場では、そこまで腹落ちしないまま進めねばならない場面は山ほど存在する。
部下の側に立てば「言っていることは理解した、けれど納得はしていない」という場面は珍しくない。それでも「信頼しているあなたがそこまで言うなら、やってみよう」と考え、話を受け入れ、行動に移すケースがある。これが成立するのは、先週も触れた「理解はしたが納得はしない」の逆パターンとして、土台に信頼関係がしっかり築かれているからである。
マネジメントは、上からの要求や目標と、部下の要望という相反するニーズをいかに調和させつつ目的を達成するかという営みである。仕事である以上、部下の利益に反するお願いをする場面は多い。「納得はしないけど、あなたの言うことならやる」が切り札になる。上司部下の間だけでなく、社内や他部門との調整でも同様だ。最終的な落としどころとして、信頼を根拠に前に進めるための強い一手である。
ただし、これは乱発するとインフレを起こす。いつも一方的にお願いばかり続ければ、やがて信頼関係は崩壊する。「無理難題ばかり言われる、納得はしないけど仕方なくやる」が積み重なれば、どこかでバカバカしくなる。

さらに、信頼を免罪符にして説明責任を果たさず、仕事を丸投げする上司が信頼されるはずはない。どう感じるか、少し想像すれば明らかだ。だからこそ、ギブ・アンド・テイクが基本であるという原則を外してはならない。
上司は基本的にお願いをする立場にあることが多い。だからこそ、部下が困っていたり相談してきたりした時こそ、しっかり向き合い、気持ちに寄り添うことが大切だ。できるものはできる、できないものはできないという業務のルールは崩さない。その上で、誠意をもって話を聞き、説明を尽くす姿勢が問われる。部下はそこに敏感だ。言葉の端々、態度、時間の使い方に込められた誠実さを見抜く。
マネジメントだけでなく、人間関係の土台は信頼関係である。いざというときに「納得しないけど、あなたの言うことならやります」といってもらうためにも、日ごろの誠実なコミュニケーションを積み上げていきたいものである。