役割転換
最近、クライアントから管理職のみなさんに関する個別具体的な相談を受けることが多くなった。現場で起こっている事実や、期待と現実のギャップについてじっくりと耳を傾けていると、ある一つの本質的な課題に行き着くことが多い。それが「トランジション」、つまり「役割転換」がうまくできていないのではないか、という仮説である。
トランジションとは、組織における人の成長を役割転換というテーマから体系化したモデルのことだ。例えば、学生から社会人になるケースを想像してみてほしい。お金を払って勉強を教えてもらう立場から、仕事をして価値を提供してお金をいただく立場への180度の転換である。これは本人にとっても周囲にとっても意外と分かりやすい。
しかし、同じ組織の中で長年働き、担当者から係長、課長、部長へと階段を上っていく過程で起こる役割転換は、どうしても気がつきにくいものである。
肩書きがつき、役割が変わったはずなのに、つい自分の得意なことばかりに目が向いてしまったり、過去の成功体験をそのまま引きずってしまったりするのだ。
特に昇進する人は、前のポジションで高いパフォーマンスを出しているからこそ昇進したわけであり、それゆえに成功体験を引きずる可能性がなおさら高くなるのである。
かくいう店主も、課長になった時にトランジションがうまくいかなくてかなり苦労した経験がある。具体的に言うと、プレイヤーからマネージャーへの転換において、「自分で直接仕事をして成果を出す」のではなく、「メンバーに仕事をしてもらって成果を出す、目標を達成する」という、マネージャーにとって最も重要な視点がまるで抜けていたことに、かなりの間気がつくことができなかったのである。

なぜ気づけなかったのかと考えてみると、当時在籍していた会社は、そこそこの規模であり、事前に昇進試験で評価されるポイントも公開されていたし、マネジメントとはなんぞやという昇進後の研修もしっかりと受けさせていただいていた。
それでも気づきに至らなかったのは自分が悪いといえばそれまでなのだが、よくよく調べてみると、リクルート社からこの「トランジション・デザイン・モデル」というレポートが出たのは2010年のことであった。つまり、店主が課長に昇進した時点では、この概念は世の中に出ていなかったのである。
まあ、それではしょうがないか、と納得しつつも、課長に昇進した時にこの概念に出会っていれば、自ら手を動かすのではなくメンバーに仕事をしてもらうのだという役割転換の視点での気づきが得られていただろうと思う。
もし当時の自分がそれに気づけていたならば、もっと自身の役割の本質的な部分を理解して仕事ができたのにと、少々悔しい気もしてくるのである。
ただ、いまさらそんなことを考えても仕方がない。当時の店主のように、役割が変わったことに気づけず、トランジションがうまくいかなくて苦労している方々がたくさんいる。
そういったクライアントの社員の方々に、今度はこちらが伴走し、かつて得られなかった気づきを促していく番である。自身の経験を悩めるリーダーのみなさんへ、価値としてしっかりとお返ししていく番だと思ったのであった。