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気持ちのマネジメント(第31回)

「あの部下はわからず屋だ」と決めつける前に

先日ある企業のマネージャーから受けた相談を思い返していた。「うちの若いのが、何度言ってもこちらの意図を理解しないわからず屋でしてね」。ため息交じりにこぼした彼の言葉は、これまで店主が人事や組織開発の現場で幾度となく耳にしてきたものだった。どうやら、どこの職場でも同じような光景が繰り広げられているらしい。

 

「わからず屋」。ひと言で片付けてしまうのは簡単だが、その背景には、上司と部下の間にある見ている景色と優先順位の違いが生み出す、感情のすれ違いが隠れているのだと思うのである。

 

例えば、新規プロジェクトにおいて、上司が「まずは6割の出来でいいから、早く形にして出してほしい」と指示を出したとする。しかし、部下は細かい部分にこだわり、いっこうに作業を進めようとしない。

 

上司からすれば、ビジネスにおけるスピード感や全体像の把握が最優先であり、細部にこだわる部下は頑固で融通が利かないように映るだろう。

 

だが、部下の心の中を覗いてみると、そこにあるのは反抗心ではない。「未完成のものを出してミスがあったら、結局自分が責められるのではないか」という不安や、「お客様の目に触れるものだから品質を落としたくない」という彼なりのプロ意識だったりするのだ。

 

上司には反抗に見える行動も、部下からすれば責任を果たそうと必死にもがいている結果なのである。

 

 

また別の場面で、「明日から業務フローをこの形に変更してほしい」と指示した際、部下から「なぜ変えるんですか、今のままでも十分回っていますが」と問いただされることもあるだろう。

 

上司は経営陣の決定事項として全体最適を考えており、いちいち理由を説明しないと動かない部下を面倒だと感じてしまうかもしれない。権威を否定されたような不快感を覚えることもあるはずだ。

 

しかし、部下はただ、現場の効率を気遣い、自分自身が納得して良い仕事をしたいと願っているだけなのだ。目的や理由がわからないままではモチベーションが上がらないという、ごく自然な心理の表れなのである。

 

このように、上司と部下では持っている情報量も違えば、守るべきものも違う。部下をわからず屋だと感じてしまったときは、一度そのレッテルをそっと横に置いてみてほしい。

 

そして、彼ら彼女らが何に固執し、何を恐れているのかを事実ベースで探ってみるのだ。それはスキルの問題なのか、環境の問題なのか、あるいは心理的なハードルなのか。行動や方法を指示する前に、「なぜそれが必要なのか」という背景をていねいに共有することで、驚くほどすんなりと納得してくれることも多い。

 

あの部下はわからず屋だと上司がイライラしているとき、往々にして部下の側も、うちの上司は現場のことをまったくわかってくれないと嘆いているものである。この鏡のような関係性を断ち切ることができるのは、やはり権限と経験を持つ上司の側から歩み寄ったときなのだと思う。

 

相手のメガネを借りて、彼ら彼女らが見ている景色を覗き込んでみる。そんな大人の余裕が、組織の空気を少しずつ柔らかくしていくのではないだろうか。