ねんきん定期便
先日、店主のポストに見慣れぬ封書が届いていた。ねんきん定期便である。店主はすでにペーパーレス化に協力して電子版に切り替えていたはずなのだが、なぜ紙で届いたのか不思議であった。
中を開けて案内を読んでみると、どうやら年金ネットで「郵送不要」と登録した人であっても、35歳、45歳、59歳の節目のタイミングでは紙で送られてくるのだという 。これではせっかく電子版に切り替えている意味があまりないような気もするのだが、そう思うのは店主だけだろうか。
とはいえ、せっかくなので、A4用紙約2ページ半にまとめられた約35年間の厚生年金保険料の支払い状況を、あらためてじっくりと眺めてみることにした。
この数字の羅列、中身をよくよく分析してみると実に面白いことが見えてくる。新入社員の頃からの毎月の標準報酬月額を追っていくと、店主のこれまでの会社員人生と、当時の労働環境の変遷が克明に記録されているのだ。
例えば、入社からの最初の3年間は毎年「随時改定」で標準報酬月額が上がっている。まだバブルの余韻が残る時代、三六協定という言葉すら知らず、月に100時間を超える残業がザラであった猛烈な働き方が、この数字に表れている。
入社10年後にはなんと上限額に張り付いてしまったのだが、これは昇格による基本給アップに加え、単身赴任手当が算定基礎に含まれていたことが大きく影響している。
その後、管理職である課長に昇進した際には残業手当がなくなるという、よくある給与の逆転現象の被害にも遭ったにも関わらず上限張り付きはキープされていた。
しかし単身赴任が一時的に解除され手当がなくなった時期には、標準報酬月額が一気に9万円も下がっていた。
こうして社会保険料の推移を追っていくと、店主の会社員人生のさまざまな出来事が見えてくるのだ。
また、社会保険の制度自体も大きく変わってきた。2003年からは賞与にも社会保険料がかかるようになったのだが、それ以前は賞与は対象外であった。店主が入社した頃は、年収が同じなら賞与の比率を高くすることで、労使双方の社会保険料負担を合法的に圧縮するという、人事屋ならではの悪巧みを見過ごすことができなくなったのであろう。

その後の変化をみると2020年9月に上限が62万円から65万円に引き上げられたのが最後の変化であった。
さらに上限額は来年から段階的に引き上げられ、2027年9月に68万円、2028年に71万円、2029年9月には75万円になるという。
さて、この定期便にはこれまでに納めた厚生年金保険料の総額もしっかりと記載されている。塵も積もれば山となる、素晴らしい金額であった。これを75歳から受給開始とした場合の年額で割ってみると、最大84%増える恩恵もあり、当初は4.9年で元が取れると喜んだ。
しかし、小さく隅の方に書かれた注意書きを読むと、この記載額は労使折半の「被保険者負担分」のみであった。厚生年金保険料は事業主も同額を別途負担している。つまり実際の元本は倍であり、損益分岐点は9.9年となる。
75歳から約10年生きられるか。なかなか微妙なラインである。しかし、年金受給を75歳まで遅らせることで得られる利回りは、複利換算で年利約6.29%という、今の時代にはあり得ないほどの魅力的な利回りである。
これからのフリーランス生活、自分の腕一本で稼ぎ続けることも重要だが、同時に「健康」という最大の資本を維持することが、この上ない投資回収の手段になるというわけである。75歳から元気に10年間、しっかりと年金を受け取れるよう、今日からもっと健康に気をつけなければいけないと考えさせられたのであった。