Cafe HOUKOKU-DOH

~ホッとひと息的な読み物でブレイクするサイト~

気持ちのマネジメント(第37回)

コーチング理論を学ぶ前に知るべき「傾聴」の本質

高い受講料を払ってコーチングの講座に通い、最新の理論やフレームワークを熱心に学んでくるマネージャーの話をよく聞く。得たばかりのテクニックを駆使しようと、意気揚々と職場に戻り、部下との面談に臨むのだ。

 

上司が目を輝かせて「さあ、学んだコーチングを実践してやろう」と前のめりになっているとき、目の前に座らされた部下は一体どのような気持ちを抱いているのだろうか。

 

巧みなオープン・クエスチョンを投げかけられ、どこか意図されたゴールへと誘導されそうになる気配を、人は驚くほど敏感に察知するものだ。部下からすれば、実験台にされているような居心地の悪さを感じるかもしれない。

 

部下が本当に求めているのは、高度な理論に基づいた鮮やかな問いかけなどではない。ただ、自分の抱えている悩みや現状の言葉を、まずは遮ることなく真摯に聴き、わかってほしいだけではないだろうか。

 

「傾聴」の本質とは、相手を評価したり判断したりする思考を完全に手放し、「100%相手のために自分を無にして聴く」ことにある。会話の途中で「自分ならこうする」「その考えは甘いのではないか」と心の内でジャッジしているうちは、本当の意味で聴いているとは言えない。それは意識が「自分」に向いている状態なのだ。

 

アドバイスをしたくなる衝動をぐっと堪え、言葉の裏にある感情、声のトーン、そして沈黙すらも丸ごと受け止める。相手の言葉の表面を頭で理解しようとするのではなく、相手の「ありのままの存在」を心で深く受け取ることこそが、傾聴なのである。

 

ロジャーズが提唱したように、聴き手自身が自分をごまかさず、ありのままのニュートラルな自分でいる「自己一致」の姿勢が、その土台となる。自分が完全に透明になり、無条件の肯定的な関心を持って相手の領域に入り込むことで初めて、「この人になら何を話しても安全だ」という深い安心感が生まれる。

 

このラポール(信頼関係)という豊かな土壌があってこそ、部下は安心して自らの内面と向き合い、自発的な気づきへと至ることができるのだ。会話の主役はあくまで相手であり、こちらは7割から8割を聴くことに徹するべきなのである。

 

信頼関係の源泉は、磨き上げられた理論ではなく、自分の存在をそのまま受け入れ、分かろうとしてくれる相手の温かい姿勢なのだと思う。何かを解決しようとする前に、まずはただ静かに、目の前の人の存在に耳を澄ませてみてはいかがだろうか。