部下の話に「共感」を示すことの重要性
上司と部下の休憩室での会話。若手が「他部署との連携が上手くいかず、納期に間に合うかと本当に焦りました」と吐露したのに対し、上司は間髪入れずに「でも、それは事前の確認不足じゃないか? そこはこうやって改善すべきだよ」と正論を被せる。若手は小さく「はい、すみません」とつぶやき、それ以上は口を閉ざしてしまう。
職場でこのようなやり取りを目にした読者は少なくないのではないだろうか。
ビジネスの場では、私たちはどうしても成果や数字、あるいは最短ルートでの解決策に目を奪われがちである。しかし、どんなに優れたITツールやAIが業務を効率化しようとも、そのプロセスを担い、実行するのは感情を持った生身の人間なのだ。成果の裏には、目に見えないプレッシャーや葛藤、徒労感といった感情が必ず潜んでいる。
部下が悩みや失敗、業務上の課題を口にする時、その内心には「怒られないか」「能力不足だと思われないか」「言い訳だと捉えられないか」という強い不安が渦巻いている。
ここで上司が感情を無視して「なぜミスをしたのか」と詰め寄ったり、即座に解決策をぶつけたりすれば、部下の心には自己防衛の壁が築かれる。「どうせありのままを話しても論破されるだけだ」という諦めは、やがて都合の悪い情報の隠蔽、すなわち報連相の深刻な遅延を引き起こす可能性が大きい。
では、我々はどのようにコミュニケーションすべきだろうか。答えはシンプルだ。まずは「それは大変だったね」「その状況は確かに焦るよね」と、部下の感情そのものを受け止めることだ。
共感が部下の心にもたらすポジティブな変化は計り知れない。
第一に、「この人は自分をジャッジするのではなく、理解しようとしてくれている」という深い安心感(心理的安全性)が生まれる。
第二に、結果だけでなくプロセスにおける苦労を労われることで、「自分は組織の単なる歯車ではなく、一人の人間として大切にされている」という自己肯定感が育まれる。これが組織への帰属意識とモチベーションの源泉になるのだ。
そして第三に、ネガティブな感情を他者に受け止めてもらうことで、「自分には味方がいる」という心強さが生まれ、孤独感から解放された部下は、再び困難な壁に立ち向かうための前を向く力を取り戻すのである。

読者の中には、「共感したら相手の言い分を認めたことになり、甘やかしてしまうのではないか」と危惧する方がおられるかもしれない。しかし、これは明確な誤解である。「共感(相手の感情を理解し寄り添うこと)」と「同意(相手の意見に賛成すること)」は、きっちりと切り離して考えるべきなのだ。
たとえ部下の主張が間違っていたり、状況認識が甘かったりしたとしても、「そのように感じている」という感情の事実は否定できない真実である。「なるほど、他部署との連携が上手くいかなくて、焦りとフラストレーションを感じていたんだね」と、まずは感情をラベリングして受容する。感情を受け止めることと、業務上の改善点を指摘することは、決して矛盾しない。
まずは相手の喜怒哀楽を言語化し、受け止める。このほんの数秒の「間」こそが、部下の承認欲求を満たし、その後に続く建設的なフィードバックを素直に受け入れてもらうための豊かな土壌を耕すのである。