ストレスチェック
先日、あるクライアントから「ストレスチェックの結果を使って、組織課題を抽出できないか」とご相談をいただいた。早速いただいたデータを開き、分析作業に取り掛かったのだが、実は店主、会社員時代を含めて、ストレスチェックを「組織課題の抽出」という観点から真剣に分析したのは今回が初めてであった。
これまでは個人のメンタルヘルスケアの領域だと無意識に切り分けていた節があるのだが、いざ向き合ってみると、これが実に「使える」データであることに気づかされたのである。
ご存知の読者も多いかもしれないが、厚生労働省が規定しているストレスチェックには「57項目版」と「80項目版」の2種類が存在する。57項目版が個人のストレス状況の把握、つまりメンタル不調の一次予防を主目的にしているのに対し、80項目版はそこに23項目が追加され、職場環境の改善や健康経営の推進にまでアプローチできるよう拡張されているのだ。
今回、その80項目版の中身をじっくり見てみたのだが、その出来栄えの良さに感心してしまった。質問項目の回答結果は、「仕事の負担」「作業レベルの仕事の資源」「部署レベルの仕事の資源」「事業場レベルの仕事の資源」「健康および満足度」という5つのカテゴリーに見事に分類されている。
■新職業性ストレス簡易調査票(80項目)
https://kokoro.mhlw.go.jp/etc/pdf/stress-check_80_j.pdf
これを活用すれば、調査対象の組織全体と全国平均とを容易に対比することができ、自分たちの会社のどの項目が、世間一般からどの程度、どのように乖離しているのかが一目でわかるのである。
さらに素晴らしいのは、ストレスチェックが法令で毎年の実施を求められている点だ。同じ調査項目を毎年定点観測することで、組織状態の経年変化を追うことができる。人事の仕事に携わる方なら頷いていただけると思うが、組織課題を特定して何らかの施策を打ち、その効果を社員意識調査のような数値で検証してPDCAを回すというのは、組織開発の王道である。
しかし、大々的な社員意識調査を独自に実施するのは、金銭的なコストはもちろんのこと、回答する社員の時間を奪うという点でも負担が小さくない。
その点、この80項目版のストレスチェック結果を分析すれば、緻密な原因究明とまではいかずとも、大まかな組織課題の特定には十分すぎるほどの示唆が得られる。仮説を単なる勘ではなく、数値の裏付けをもって確認し、一歩踏み込んだ議論ができるのは非常にありがたい。施策を打った後の変化を見るためのバロメーターとしても、十分に機能するはずである。
これまで、組織課題といえば立派な社員意識調査ばかりに気を取られ、足元にあるこの宝の山をきちんと見ていなかったことは、長年人事にかかわってきた者として大いに反省すべき点であった。大掛かりな意識調査にコストをかけられない中小企業にとって、この80項目版を実施し、その結果をしっかりと分析することは、費用対効果の面で極めて有効な手段となるだろう。
今後は、店主自身もクライアントに対して、この調査結果の有効活用をもっと積極的に提案していかなければならないと決意を新たにしたところである。そして同時に、国の機関が提供する仕組みの質の高さにも改めて気づかされた。
優秀な官僚の方々が練り上げたであろう制度や無償のテンプレートは、実によくできている。資金力に制約のある中小企業こそ、こうした国のお墨付きツールを賢く、したたかに使い倒すべきだと思うのであった。