答えを与えるのではなく「気づき」を促す
私たちは、いそがしいビジネスの現場において、部下の気づきを待っている余裕などなく、「即座に正解を与える」ことが日常の光景である。
しかし、人が本当に成長し、自律的に動くようになるのは、自らの内側からハッとするような「気づき」が生まれた時だということは理解はしている。今週はこの育成に重要なコミュニケーションについて考えてみたい。
部下が自ら答えにたどり着くためには、三つの心理状態が満たされている必要があると考えている。
「間違ったことを言っても評価は下がらない」という心理的安全性、「今の壁を越える力が自分にもあるはずだ」という自己効力感、そして「誰かにやらされるのではなく自分で決めたのだ」という自己決定感である。
では、具体的にどのように対話を進めればよいのだろうか。第一歩は、相手の話を聴くこと。新しい課題に直面し、どう進めるべきか迷っている部下に対して、すぐにアドバイスをするのは得策ではない。まずは話を聴き、考えをそのまま受け止める。否定せずに言葉を返すだけで、張り詰めていた心の糸はふっと緩むものである。
気持ちが落ち着いて初めて、視点を切り替える余裕が生まれる。ここで「なぜ進まないのか」と原因を問いただすのではなく、「もし何の制約もないとしたら、どういう状態になるのが一番良いと思うか」と、未来の理想へ向けて問いかけるのだ。
さらに、立ちすくんでいる相手には、過去の経験やその人ならではの強みにそっと光を当ててみる。そうして「自分にもできるかもしれない」という感覚を取り戻した彼らに、最後は「明日確実にできそうな小さな一歩」を自ら選ばせる。与えられた完璧な計画よりも、不完全でも自分で選んだという事実こそが、前へ進むための強い原動力となるのである。
こうした一連の対話の中で、実は上司にとって最も難しく、かつ重要なのが「沈黙を恐れないこと」である。問いかけに対し、部下が黙り込んでしまうことがある。これは言葉に詰まっているのではなく、自分自身の内面と向き合い、懸命に答えを探している尊い時間なのだ。
経験豊富な上司ほど、ここでつい助け舟を出して「答え」を与えたくなる誘惑に駆られるだろう。しかし、そこはグッとこらえて待つ。その静かな時間こそが、相手の力を信じているという何よりのメッセージであり、リスペクトの証となるのである。
いそがしいビジネスの現場でも、部下の「気づき」を信じて待つ余裕を持ちたいものである。