部下の「承認欲求」を満たすための小さな工夫
部下のモチベーションを引き出し、自律的な成長を促す上で、彼ら彼女らの「承認欲求」を満たすことは極めて重要だ。承認欲求が満たされることは、部下にとって心のエネルギーがチャージされることと同義なのだ。
職場で承認されていないと感じる部下は、漠然とした不安を抱え、「どうせ誰も見ていない」「間違えたら怒られる」と萎縮し、責任回避に走ってしまう。
しかし、承認で満たされれば、「ここは自分の居場所だ」「自分の仕事には価値がある」と感じ、失敗を恐れず自律的に挑戦できるようになるのである。
つまり、承認欲求を満たすことは部下を甘やかすことではなく、本来持っている能力を存分に発揮するための、安全な土台を作ってあげることなのだ。
では、承認欲求を満たすにはどうすればよいのか。何も大げさな表彰や特別な報酬を用意する必要はない。日々のちょっとしたコミュニケーションの積み重ねこそが、強固な信頼関係の土台を作るのである。
まずは相手の存在そのものを認める「存在承認」である。たとえば部下から相談を受けた際、PCの画面から目を離し、物理的に身体を向けて話を聞くだけでいいのだ。これだけで、部下は「自分は後回しにされていない」と実感できる。
また、挨拶の時に単に「おはよう」と言うのではなく、「〇〇さん、おはよう」と必ず名前を添えて声をかけることも大切である。大勢の中の一人ではなく、個人として認識されているという実感が、職場への安心感を生むのである。

次に、結果に至る過程を認める「プロセス承認」も欠かせない。結果が出る前に途中経過を労ったり、備品の補充や素早いメールの返信といった、誰かがやらねばならないが評価されにくい「見えない仕事」に対して、「いつも助かっているよ、ありがとう」と明確に感謝を伝えることである。結果だけでなく努力や工夫そのものを認められることで、部下は失敗を恐れないチャレンジ精神を育むことができるのだ。
さらには、相手を一人のプロフェッショナルとして扱う工夫もある。「この件について、〇〇さんの視点から意見を聞かせてくれない?」と、あえて部下に相談して意見を求めてみるのだ。
頼りにされ、意見を求められること自体が、その人の能力への強い承認となる。「ありがとう」「助かったよ」と役割を承認されることで、自分の仕事が誰かの役に立っていると実感でき、それが「自分ならできる」という前向きな自信、すなわち自己効力感へと繋がっていくのである。
ただ、一つ忘れてはならない大切なポイントがある。それは、承認は心の中で評価しているだけでは相手に一切伝わらないということだ。少し大げさなくらいに言葉にし、タイミングを逃さずその場ですぐに伝えることが最大のコツである。
上司からの承認というものは、部下にとって自分の進んでいる方向は正しいのだと確認できる道標のようなものなのだ。
ただ怒られないためという「義務感」のレイヤーから抜け出し、自分を尊重してくれる組織に対して「もっと貢献したい」という自発的な思いを持ってもらうこと。それは、ITツールがいかに進化しようとも、人と人が関わり合う以上、決して自動化できないマネジメントの真髄である。
店主の会社員時代、直属の上司であった管理本部長は、相談や承認サインをもらいに行くと、忙しい中でも必ずPCの手を止めて、しっかり店主に向き合って話を聴いてくれた。厳しい方であったが、一人の人間として認めてもらっている感じを持ったことを今でも覚えている。
部下にしっかりと向き合い、信頼関係を築いていきたい。