幼稚園
引っ越しに伴って、あのイヤでイヤでたまらなかった前の幼稚園に通わなくて済むようになり、店主はすっかり安心しきっていた。新しい家でミニカー遊びなどのびのびと過ごす穏やかな日々。ところが、そんな平和な時間は長くは続かなかった。翌年の春から「1年保育のクラス募集があるらしい」と母親がどこからか情報を仕入れてきたのである。
「なんと余計なことを…」と内心思ったが、母親は店主の社会性や発育を心配したらしく、有無を言わさず入園させられることになってしまった。
新たに入園することになったのは、家から250メートル程という奇跡的な近さに位置していた「八木山カトリック幼稚園」である。新興住宅地にある幼稚園らしく、常に定員は埋まっている状態の人気の園であった。
奇跡的な近さとはいえ、バス通りを5歳児が毎日一人で徒歩で通っていたのだから、今考えると驚きである。当時の交通事情や社会全体が、いろいろな意味でおおらかであった証拠だろう。
しぶしぶ通い始めた新しい幼稚園であったが、予想に反して店主にとっては非常に居心地の良い場所となった。以前の幼稚園のように「まりつき」などの公開テストや、お稽古事のような厳しいカリキュラムはほとんどなかったからだ。幼稚園で過ごす時間の大半は自由時間であり、好き勝手に遊んでいればよかったのである。
カトリック幼稚園というだけあって、クリスマス会などキリスト教にちなんだイベントがあったことはおぼろげながら記憶しているが、それ以外に嫌な記憶はまったくない。何かを強制されて苦痛な時間を過ごしたわけではなく、園庭でのボール遊びや砂遊び、遊具を使った運動、そして教室の中ではスケッチブックにお得意のバスの絵をせっせと描いたり、粘土遊びをしたりと、新しい幼稚園生活を存分に満喫していた。
また、幼稚園の隣にあった小学校へは、ほとんどの園児がそのまま一緒に入学することになった。今はもう具体的な同級生の名前はほとんど思い出せないが、たくさんの園児と一緒に小学校へ上がれたことは、友達づくりという観点からも大きなメリットがあったと感じている。

この幼稚園時代には、もう一つ忘れられない思い出がある。それは、誕生日プレゼントに初めて自転車を買ってもらったことだ。当然、補助輪付きの幼児用自転車であったが、この存在は店主にとってとてつもなく大きかった。
引っ越したばかりの家は、地方都市の昭和40年代の区画ということもあり、100坪もあった。建屋以外の土地の3分の2には一面の芝生が広がっており、幼稚園児が自転車を乗り回すにはまさに最高の環境であった。この自転車という乗り物がよほど楽しかったらしく、店主はその後、自転車に対して並々ならぬこだわりを発揮するようになるのだが、そのきっかけを与えてくれたのが、この最初の自転車であったことは間違いない。
ただし、その後自転車を買い替えるタイミングを間違えて、周囲の友人たちとの「車格の違い」に悩むようになるのだが。そのエピソードについては、またの機会に詳しくお話しすることにしたい。
わずか1年足らずの新しい幼稚園生活であったが、振り返ってみると、教育機関の運営方針や環境の違いが、そこで過ごす時間の満足度にこれほどまで大きな影響を与えるものかと、改めて考えさせられたのであった。
つづく…