OAカルク
店主が入社した当時は、パソコンなどはまだ使い勝手が悪く、アプリも出ておらず、マニアが自分でプログラムを組んで使う超玄人向けのものでした。
当然、日常の仕事はすべて手作業が基本です。社内向けの文書はもちろん、表計算も基本手で表を書いて、その中に数字を記入し電卓で計算して、最後にタテヨコをあわせて完成です。
店主のような事務の初心者は、この電卓で何十という数字を計算するのが特に苦手でした。一応何とか途中で打ち間違いなど失敗せず最後まできて、合計をメモります。で、もう一度同じ計算をするのですが、これが合いません。2度目が正解かと思い、その数字をメモって3度目のトライです。で、それも合わない。なんと同じ数字を足し算して3種類の答えが出てしまうのです。仮に4度目の答えがどれかと合っていたとしても、それが間違いなく正解かというと、ココまでくるともう自信がなくなってしまいます。同じ打ち間違いをしてしまったのではないかと。
当時、給与計算のようなたくさんの数字を計算する場合には、情報システムの部屋に備え付けてある大きな業務用クーラーのような汎用コンピューターを使って、システム課の人にお願いをしてオペレーションをしてもらって、計算をしていました。
その汎用コンピューターには、表計算ソフトが付いていて、経理や営業管理など数字の集計作業をする部門の人たちは、そのOA(オフィスオートメーションの略)カルクというエクセルのご先祖様のような表計算ソフトを使っていました。
OAカルクは、汎用コンピューターで動かすので、その端末機が各職場においてあります。イメージとしては、デスクトップ型のパソコンをイメージしてもらうといいのですが、当然当時ですからモニターはブラウン管で白黒、マウスもなくて、操作はすべてF1~F15までのファンクションキーとシフトキーの組み合わせで操作します。機能としてはエクセルとほぼ同じなのですが、当然使い勝手は悪く、使いこなすには説明書と格闘しながらかなりの熟練を必要としました。
当時の人事には、このOAカルクを使える人がおらず、すべての集計作業や作表計算は手作業で行われていました。店主は当時から同じ作業を繰り返す仕事は、最初ある程度手間がかかっても、長い目で見たときに時間が削減できるのであれば、できる限りOA化すべきという考えをもっていました。
それはそうですよね。世の中ワープロが家庭にも普及し始め、パソコンがだんだん身近なものになってきた頃です。ところが当時のOAカルクは使い勝手が悪くて、まだこれを使った方が効率的というには、説得力が欠けていました。
職場の上司や先輩は、事務職のベテランで、圧倒的に手でやってしまった方が速いのも事実です。店主がOAカルクを見よう見まねで使って仕事をしようとすると、「そんなもの使っている時間があったら手で計算してサッサと終わらせて!」と否定されてしまいます。
しかし店主は将来的にOA化の流れは加速するはずだし、今の人事のみんながやっている作業もこれを使ってやれば必ず速く、間違えず、効率的にできるはずだと考えていました。なんとか、この便利さを理解してもらうにはどうすればいいか、と考えたときに、答えはただ一つ、実際に使ってもらってその便利さを体感して理解してもらうしかないという結論に至りました。
女性の先輩のパート社員の給料計算をOAカルクで計算ができるよう、まずは基礎を勉強し、表や明細の仕組みを構築し、何度もテストをしてようやく実用に耐えうる仕組みを作りあげました。当然、OAカルクにさわっているだけで、遊んでいるように見られますから、昼休みだとか、休みの日に出てきてはこっそりと進めました。今はダメですよ。まあ36やコンプライアンスもうるさくなかった、のんびりした時代だからこそできたことですが。
それで、使ってもらおうと先輩に見てもらうと、操作が面倒だという話になってしまいました。ココまできてそれでなしになるのも惜しいので、それじゃ代わりに入力して計算しますからと仕事ごと請け負ってしまいました。でも、手作業でやるわけではないので、パート社員二百人分の計算など、変化点がすくなく、勤怠を入れて投入データのチェックさえすれば終了です。
あっという間に明細までできてしまうOAカルク給与計算システムの処理スピードに2ヶ月、3ヶ月と回を重ねるごとに見る目が変わってきて、「コレ結構便利だね」とのお言葉をいただくのにはそんなに時間はかかりませんでした。
以降、店主がOAカルクでさまざまな作業をすることについて、とやかく言われることはなくなったことはもちろん、その他の仕事の上でも先輩から多少信用されるようになりました。
つづく…