幹部研修
突発性難聴自体は、順調に回復していったのですが、一方で落ち込んだ気分はまったく治っていきません。いままで一番自信を持っていたハードワークへの耐性という能力が根底から崩れたのですから無理もない話しです。そんな時期に幹部研修への参加指示がありました。
MBAの知識付与を基本に、社内から選抜された部課長クラスがグループごとに自社の経 営課題を半年間議論し、その結果を具体的な経営戦略にまとめ、最後に経営陣に提案して評価をうけるという基本的なものです。
社内に適当な候補者がいないとの理由で、数年間凍結していた直後の年度でしたので参加人数も多く、40代の部課長22名が選ばれ、4つのグループが編成されました。
店主の グループは、生産企画部長、開発部長、事業企画課長、製造課長そして人事企画の店主というさまざまな領域のメンバー5名から構成されていました。
キックオフとして、最初に社長からの期待を伝えてもらうセッションからスタートだったのですが、参加メンバーの緊張感のなさと、事務局の段取りの悪さも手伝って、社長が会場に3分前にあらわれたときにメンバーの大半が喫煙所にいて会場はガラガラ。あわてて 全員着席となった後に始まった講話の第一声から5分前行動の話しをいただくという、散々なキックオフでした。
そんな状況を見てかどうかはわかりませんが、座学だけでは健全な精神が宿らないとの社長の強いリクエストで、研修メニューに全員で40キロの歩行訓練が組み込まれることに なりました。
研修で使っていた蔵王のホテルから宮城の研究所までを全員で歩くのです。 結局最後のメンバーは7時間近くかかって1名の落伍者も出さずに歩き切ることができましたが、翌日はみんなまともに歩くことさえできない状態になっていました。
経営課題の検討や経営戦略などの議論は、忙しいメンバーだけに、休みの日が中心となりました。店主らのチームは、年末年始連休の一部を使い、会社の研修施設に泊り込んで議論を行いました。
事業企画と生産企画のメンバーがいたのはとてもラッキーで、事業の数字まわりや、モノづくりをベースとしたビジネスについての課題感を整理するのにはとて も役立ちました。
自社の経営課題を本気で考えるプロセスは、それまで人事のことしか考えてこなかった店主にとって、新鮮でたいへん貴重な経験となりました。あたり前のことですが、彼らは自社の製品をビジネスという角度から見ていて、それらを取り巻く環境や業界動向、そして技 術の将来に向けたロードマップなんかをつねに考えているのです。
それらを検討しながら、自分の会社がどのようにこれから生き抜いていくのか、を考えていくこと。これほど難しくもあり、またとてつもなく広がりのある楽しくワクワクする仕事もあるのだと苦しいながらも感じているボクがいることに気付かされたのでした。
また、人事の役割というのは、そのような事業を進めていくための「ヒト」を、どのようにして準備していくことなのだと、あらためて考えさせられる機会にもなったのでした。
当初まったく研修にやる気が出せなかったボクでしたが、研修終了後にはそんなことも忘 れて、新たな切り口から仕事に取り組んでいたのでした。
つづく…