定額減税
先日税務署から封書が届いた。いま頃の時期になんの書類だろうと開けてみると「定額減税」のマニュアルであった。
政府の物価高対策の一環として昨年12月の閣議で決定された「税制改正大綱」に盛り込まれたものである。
若い読者にはなじみのないこの「定額減税」、実は26年前の1998年にも実施されたことがある。大手金融機関の破綻やアジア通貨危機などによる不景気対策として、所得税・住民税を合算して一人あたり年間3万8千円の減税であった。
この1998年の定額減税は実施約3ヶ月前の前年12月に当時の橋本龍太郎首相が急遽発表し、翌1月末に法案が可決され、なんと2月1日以降に支払う給与から所得税本人1万8千円、その他9千円を減税するというものであった。
今回は6月以降に支払う給与や賞与から実施ということで、実施の時期はズレているものの仕組みはほぼ同じである。
さっそくなので、リーフレットに記載されている今回の定額減税について、ポイントを見て行きたいと思う。
■対象者
- 本年6月1日現在、在籍している者
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出している者(いわゆる甲欄適用者)
- 合計所得金額が1,805万円以下の者(給与収入のみの場合2千万円以下)
年収2千万円を超えると対象外ではあるが、見積額は使用しないので6月の減税時点で超えていなければ、対象として減税を行う。
■減税額
以下の控除対象者1人あたり3万円。ただし、5月までの対象者から源泉徴収した所得税額が特別減税額を下回る場合には、その金額が上限となる。
- 本人
- 同一生計配偶者
- 扶養親族
「同一生計配偶者」とはいわゆる扶養に該当する収入金額が103万円以下の場合だが、年調時とは違い、対象者本人の年収1,095万円以下という要件はなく対象となる。一方「扶養親族」は所得税法上の扶養対象だけでなく、16才未満も対象となる。
■実施時期
6月1日以降支払う給与または賞与のうち、支払いが最初に到来する源泉所得税から実施する。なお、1回で減税額が控除しきれない場合、それ以降の支払いにおいて、減税額を控除しきれるまで実施するとされている。
■その他
給与明細書に「定額減税額(所得税)」の金額を表示する
ざっとこのような内容である。システムで計算している場合には、定額減税へ対応したアップデートがベンダーから配布され、それをもちいて対応することになるが、それでも作業は結構増えると予想される。
対象者の確定
5月までの所得税控除額の累積計算
同一生計配偶者、扶養親族の確定
アップデートプログラムの動作確認
6月実施に対する準備だけでも上記内容はマストだ。しかも6月10日ころに賞与支給を予定している大企業などは、5月の給与支給から2週間程度しか余裕がない。事前の念入りな準備が必要となってくる。
さらに6月は住民税の改定や通知書の配布、社会保険の算定基礎届の準備など、給与社保系の毎年のイベントが予定されている。
さらに気をつけなければならないのは、6月1日時点で休職などで給与、賞与の支給がない場合である。具体的には5月までに源泉徴収を行っていて、減税額が発生するにも関わらず6月の支給がない場合には、減税額の控除が行うことができない。
一方で、減税額を控除しきれない場合には、7月以降支払われる給与などで控除を行うことが必要となってくるため、年末調整前までは毎月、減税額が残っている対象者をチェックしておき、源泉税額が発生した場合には、きちんと減税の控除が行われているか、チェックする必要が出てくる。
この6月のみで終わらず、作業を年内いっぱい引きずるという減税の事務処理はキツイ。企業の給与担当者の工数増は結構なボリュームが予想される。
担当者においては、いまのうちからしっかりとマニュアルを熟読し、対応準備をするとともに、増加する工数を見積もって対応を検討しておくことをおススメする。