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人事屋修行記(第32話)

専門知識

人事情報システム更新のプロジェクトは、毎週水曜日に定例のミーティングを宮城の研修厚生センター2階の研修室で行っていました。店主と本社の先輩は川崎と本社から参加ですから、水曜日は朝7時過ぎの新幹線で移動します。9時過ぎに白石蔵王の駅についてタクシーで工場に入り、作業服に着替えて10時からスタートというのがいつものパターンでした。

 

人事情報システム構築のプロジェクトは、今やっている業務をシステムを使って効率的に行うのが目的です。なので、まずは今やっている仕事の中で、「こういう作業やアウトプットがコンピューターを使ってできたらいいな」、「コレをコンピューターでできるようにして欲しい」といった内容を、できるできないやコスト、技術などを気にせず、とにかくブレストで出していき、それをベースにシステムに必要な機能を整理していくところからスタートします。

 

メンバーはみんな実務経験が長く、いちばん歳の近い宮城の給与担当の先輩でもすでに4年以上も担当しています。そんなメンバーで会議はスタートしました。ホワイトボードを前にしてみんなが提案した内容を箇条書きに書いていきます。はじめのうちは当たり前の内容を次々と出していきます。そのうち当たり前の内容がだいたい出つくすと、内容がだんだんマニアックなものになってきます。

 

「夜勤者の夜食に対する現物給与の課税を機械で自動的に計算させたい」とか「本社の食事補助手当を時間外手当の割増賃金計算のもととなる賃金の項目に含めて自動的に計算させたい」、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の扶養家族欄は、特定扶養を生年月日から判定して丸印を印字してプリントアウトさせたい」など、次から次へとアイデアが出てくるのですが、隅の方で聞いている店主には出てくる単語の意味がわからず、まるでチンプンカンプン、外国語を聞いているようです。

 

意味のわからない専門用語というのは、会話で音だけを聞いても漢字が浮かんでこないので、記憶することもなかなかできません。夕方までまる1日、そんな状況の中で過ごすことは、会議に出ているだけで苦痛でした。

 

初めてのミーティングが終わり、家に帰ってきてドッと疲れが出てきたのと同時に、このままではまるで仕事にならず、みんなについていけないという焦りと不安に包まれました。

 

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その週末、神田の書店街に行ってみました。神田は江戸時代末期に諸藩の武士を教える塾がはやった街で、その流れで明治に入って大学が集まり、そのため本屋がたくさん集まっています。

 

本屋を何軒か回り、ビジネス関係の専門書がたくさんおいてある店を見つけました。その店は、本屋だけで9階立てでフロアごとに本の種類が分かれており、ビジネス関係の専門書だけで3つか4つの階に分かれていました。こんなたくさんの種類を扱う本屋に入ったのは生まれて初めてで、あらためて東京はすごいところだと感心しました。

 

その日は、お昼から夕方までかかって、労働基準法と特に賃金の部分に関しての法律を解説した専門書の2冊を探し出し、わかりやすそうだということで買って帰りました。それからまずはその2冊を読んで勉強したわけですが、その本はその後もボロボロになるまで繰り返し、何度も読み返し、実務でわからないことがあると引っ張りだしては読んでいました。

 

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あのプロジェクトの最初の打合せで受けたショックが、店主に専門知識の大切さを教えてくれるきっかけとなったのです。今思うとホントにいい経験をさせてもらったと思います。おかげで専門知識を勉強することが必要なんだということと、その知識が自らの付加価値につながるということを、後に結果として教えてくれることになりました。

 

つづく…