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人事屋修行記(第136話)

事業譲受

この頃昭和電工から熱交換器事業を譲り受ける話しが進んでいました。前々職では自動車のエンジン制御ユニットの他に、自動車用エアコンの事業も持っていましたが、エアコンユニット全体を構成できる部品すべては手がけてはおらず、モジュール提案で顧客要求への対応力とコスト競争力を高めるため、構成部品の一部を取り込もうとしていました。

 

対象となる事業は、日本以外にもアメリカ、中国、タイとチェコに拠点があり、国内は小山に工場を持っていました。事業と一緒に国内で3百名、グローバルでは約2千百名の従業員も転籍です。

 

当時の人事の組織は、店主が担当していた人事企画室の他に、総務部の下に定常業務を担当する人事課や人材開発課、その他各拠点の人事という組織でした。

 

事業譲受による従業員の転籍手続きは、その労働条件の調整も含めて、なにかを変えるとか、新しいことをはじめるということではない、との整理から定常業務の範疇として、人事課が担当することとなっていました。

 

 

ところが、6月の株主総会が終わって一段落している頃、管理本部長に呼ばれ、「 人事にお願いしている昭和電工の転籍受け入れがまったく進んでいない。あいつらに任せていたらいつになるかわからないので、申し訳ないが人事企画の方でで頼む」とのこと。

 

総務部長と人事課長の2人掛りでやっていて、進捗が思わしくない、とのうわさは聞いていたのですが、まさかお鉢が回ってくるとは考えていませんでした。早速打合せを開いて進捗を確認してみるとたいへんな状況です。

 

1年ほど前から社内ではプロジェクトが立ち上がっていて、前年の年末には子会社設立の対外発表までしています。翌年の4月には、昭和電工の従業員を転籍させることになっているのですが、6月のタイミングでまだ基本的な方針さえも決まっておらず、双方の労働条件をならべただけの状態でした。

 

さらに、タイムスケジュールでは、9月末までに転籍時の取扱いを合意して、その上で労組説明から対象者説明まで行い、年内中には転籍対象者から合意を取り付ける必要があるのです。

 

話しを聞いていて、こんな状況になるまでなにもしていなかった担当の2人に対し、不思議と腹が立つことはなく、どうすればこのタイトなスケジュールの難題をクリアすることができるか、とそのことばかりを考えていました。幸い人事企画は定常業務を持っておらず、そこらへんは機動的に人と仕事をやりくりすることができます。

 

早速店主は、労組窓口担当の主任に担当をお願いし、二人であらためてスケジュールをひき直す作業から取り掛かりました。そこには忙しい状況に入り込んで行きつつも、この会社の中では、この仕事は自分にしかできないという、認めてもらえたという期待にしっかりと応えていこうという店主がいたのでした。

 

つづく…