マネジメントの仕事
会社員時代、それから独立してクライアント企業から話をお聴きする中で、必ず出てくるのが、「マネジメント層に課題がある」という話だ。
マネジメントの役割を担う人々が、その役割を果たせず、組織のなかでマネジメントという重要な機能がきちんと働いていないというのである。
その理由はさまざまだが、なかでも多いのはマネジメント層に対して、「マネジメントとはなにか、どのような役割を担わなければならないか」という基礎的な知識付与を行っていないというのが意外と多いのだ。
知識を付与して理解するのと、それを「上手に実践できる」のは別の話である。スポーツを思い出してみればわかるが、ゴルフの理論を理解すれば上達できるのであれば、ゴルフ好きのオジサン連中はとっくにシングルプレーヤーである。実践できるようになるためには、訓練が必要なのだ。
一般的にマネジメントの役割は4つあるといわれている。
①仕事の管理
②仕事の改善
③職場の人間関係
④人材育成
この4つは、それぞれ「ヒト」の軸と「時間」の軸で4象限に分類することができる。
①仕事の管理
組織をマネジメントしていくにあたり、まずはじめに手を付けるのはこの領域である。組織の分掌にある仕事について、その目的を明確にし、期待される品質と納期を決めてメンバーのうち適任者に割り付けるのである。
ここでいう適任者とは、単に上手にできるというだけでなく、メンバーの能力や業務の繁閑、そして納期や品質との関係を考慮して、ときには能力的には少々足りなくても育成の観点からあえてチャレンジさせるといったことも含まれる。
②仕事の改善
世の中というのはつねに進歩している。冷静に振り返ってみればわかることだが、わたしたちの生活というのは、どんどん新しいものが生まれ便利になっていく。ということは企業間で競争をしている限り、競合企業より進歩することが必要であり、それには企業のなかで行われる仕事のすべてが進歩していく必要があるのだ。
よく評価の時期になると、「去年と同じことをやっているので、3点(標準点)から下げられない」という言い訳をマネジメントから聞く。店主にいわせれば、去年と同じことを同じ品質と時間でやっていたのならば、その仕事は進歩していないので、相対的にマイナスなのである。
店主が以前いた自動車部品メーカー業界では、受注できた部品に対して、毎年数%というプライスダウンを顧客で完成車あるメーカーからあたり前に要求される。そのため製造ラインではコスタダウンを達成するために、「乾いたぞうきんをしぼる」と例えられるほど涙ぐましい効率改善を地道に行っていた。
マネジメントとしては、部下の各人に対して仕事を進歩を要求し、目標に盛り込み、それを達成できるように気付きを与え、ともに考え、ときには叱咤激励し、その目標を達成できるようにフォローするのだ。なぜなら実務の専門性は部下より高いからマネジメントとして選ばれているのである。
③職場の人間関係
チームビルディングともよばれる、単なる同じ場所に集められた人間同士を、同じ目的に向かって協力し、一致団結して仕事に取り組むことで、集まった人数以上の能力を発揮できるよう機能させる必要がある。
マネジメントというとこの役割をイメージすることが多いことでもわかるが、世間的にはこの分野を解説した書籍も多いし、さまざまな理論も紹介されている。裏を返せばそれだけこの領域がうまくいかず悩んでいる人が多いということだ。
またこの領域が苦手で管理職になりたくない、という人も多い。難易度が高いだけにその人の力量が顕在化するが、これこそが1人では成し得ない仕事を、組織で人を通じて実現していくという醍醐味が味わえる。
④人材育成
4つの役割は、実は並列ではなく、①~③の役割はすべて④を行うために存在する。いいかえれば、人材育成がマネジメントのもっとも重要な役割であり、人材育成という目的を達成するための手段が①~③であるともいえる。
先ほど会社は進歩していく必要があると述べたが、会社とは人の集まった組織であり、会社という実態があるわけではない。会社が進歩するというのは、そこに集う社員ひとり一人が成長し、行う仕事がレベルアップしていくことでしか、成し得ないのである。
会社が持続的に成長し続けていくためには、人材育成は不可欠である。その重責を担っているのがマネジメントなのである。仕事における人の能力向上に寄与する活動を研究した結果では、①仕事そのもの、②上司や同僚からの薫陶、③集合研修や書籍の3つがおもで、その割合は70:20:10ということである。
日常の仕事を通じたマネジメント活動の結果、いわゆるOJTにおける成長促進というのが、仕事における人材育成の基本なのだ。気の利いた優秀な社員は、放っておいても自ら本屋に行ってマネジメント本を買って勉強するが、大部分の普通の人々はそうではない。
マネジメントについて課題感を持っているのであれば、まずは知識付与をしてみるべきであろう。知識を理解してようやく訓練のスタートラインに立てるのである。