筆記具
アイビー式の「ねばならぬ」は持ち物にもおよんでいた。ふだん身に付けるアクセサリーや小物については当然のこととして、ステーショナリーなどにもその範疇に入っていた。
米国の有名進学校をお手本にしているだけに、勉強道具ともいえるステーショナリーにそのこだわりが適用されるのは、もっともな話である。
30年以上の書籍をめくってみると、「クラシックなもの、頑固なできのもの」をチョイスすべし、とうたっているのがほほえましい。
とはいえ、お気に入りの品を長く使い続けることが、アイビーだけでなくモノへのこだわりというものである。
長期使用に耐えうるということは、必然的につくりがしっかりしていて、耐久性に富み、かつ何十年というスパンでメンテナンスが保障されている必要がある。結果的に長きにわたり多くの人々に認められたブランドに行きつくことになる。
店主も筆記具はお気に入りのモノを長く愛用している。代表格はパーカーの万年筆。デュオフォールドのセンテニアルという、大ファンである司馬遼太郎氏が愛用していたモデルと同じものだ。
このPC時代に万年筆もないだろう、と感じる読者もおられることと思うが、やはり考え事をしながらまとめていく過程では、手書きのレスポンスがいい。思考のプロセスに集中できるのである。
とくに万年筆は、ペン先の滑りがよく抵抗がすくないので、書いていることを忘れるくらい思考に集中させてくれるのである。
この万年筆とアピカのプレミアムCDノートは、仕事で企画などを考えるときの必須アイテムなのである。
筆記具については、むかし友人が言っていたひとことが忘れられない。まだお互い20代の頃であり、懐に余裕などないのだが、彼は当時で1万円以上もする高級ブランドのボールペンを持っていた。
彼はカーディーラーでクルマの営業をしていたのだが、「なん百万円もするクルマの申込書や契約書をお客様に書いていただくのに、百円くらいの事務用ボールペンでは失礼でしょ!」ということであった。
その答えが高級ボールペンかどうかはわからないが、店主が顧客であったならば、その心遣いはとてもうれしく感じる。ふつうの人であれば人生で数回程度しか買わない不動産に次いで大きな買い物である。
クルマの営業担当者とは長い付き合いになることが多い。次回買い替えのときにも同じボールペンを差し出され、申込書を書くことになったならば、きっとその担当者に対する信頼はとても大きなものになると思う。自分の持ち物に対する姿勢、ひいては顧客のモノに対する考え方が伝わってくるからだ。
ふだんよく使うものだからこそ、長きにわたって使い続けられるお気に入りの一品を使いたい。