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人事屋修行記(第115話)

工場集約2

工場集約の社内展開は、4月末の決算発表のタイミングで行われました。発表日の午前中に取締役会で決議し、15時に東証に投げ込みをします。それと同時に社内向けにメッセージを発信し、あわせて各本部ごとに本部長から部課長に対し、詳細の説明を行いました。

 

集約対象の川崎、岩手の工場においては、それぞれ16時に全社員を食堂に集めて、工場長から内容の説明を行いました。店主は人事課長として人数規模が大きく、社員の動揺が大きいだろうとと予想された、川崎工場の説明に工場長と一緒に出席することとなりました。

 

社員が4百名以上集まる中、ひな壇には工場長、工場の人事課長そして店主の3人が座りました。工場の人事課長が司会進行を担当しスタートです。工場長が用意したパワーポイントの資料を写し、原稿を見ながら正確な表現で説明を行っていきます。社員はみな静かに聞いています。約30分あまりの説明が終わり質疑応答の時間になりました。

 

質疑では、なぜこの工場が集約の対象なのかや、集約の前に打つ手はないのか、経営陣の責任はどうなるのかといった点に質問が集中しました。内容によって工場長とボクが手分けをして説明をしていきましたが、あらかじめ用意しておいたQ&Aの内容に沿って過不足なく事務的に進めていきます。

 

 

質問している側も同じ社員の立場同士、わかってはいるものの、言わないと気がすまないといった感じで、質問をぶつけてきました。何度か会場内がざわめき、質問者の意見に同調するように何人もの社員から声やヤジがあがったりもしましたが、それほど大きな混乱もなく、予定時間を30分ほど超えたくらいで終わりました。

 

説明会終了後、かなり精神的に疲れていたので、近くに住んでいる他の会社の人事の飲み仲間に声を掛けて工場の近くで飲んでいましたが、川崎工場時代の飲み仲間から電話で呼び出されました。

 

その連中も今日の説明会には参加していましたし、このタイミングです。一瞬行くのを躊躇しましたが、逆に生の声を聞くのにはいいチャンスだと自分に言い聞かせ、すぐに飲んでいる場所に行きました。

 

 

お店に行ってみると川崎工場時代の飲み仲間は、店主に対して文句や不満をいうどころか、説明会での役割を理解してくれていて、立場上たいへんだっただろうとねぎらってまでくれました。自分たちの職場や生活の場所がこれから大きき変わるかも知れないという不安なときだというのに。

 

このときほど、人事の仕事が社員の人生に大きな影響を与えるということを実感させられたときはありませんでした。一方で、仕事ぶりというのは、見てくれている人は見てくれているものだということも、あらためて強く認識させられました。やはり逃げずにこの仕事に正面から取り組んで正解だったと思いながら武蔵小杉の居酒屋さんを後にしました。

 

つづく…