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人事屋修行記(第116話)

工場集約3

工場集約についての会社の基本スタンスは、分散している拠点を集約して経営オペレーションの効率を上げることが目的であり、社員には原則、全員拠点異動をお願いする、ただし、家庭の事情などで異動できない場合には、転身支援の取扱いを適用する、というものでした。

 

基本スケジュールでは、職場ごとに異動先の拠点とスケジュールが提示され、それを社員が検討した上で、意向確認の個別面談を行います。個別面談は本来、所属長の仕事ですが、製造部門などはひとつの課で百名以上も在籍しており、短期間で終わらせなければなりません。全社の人事部門から応援をもらって、10名程度の管理職で面談にあたりました。

 

意向確認の結果、約6割の社員が異動を承諾され、残りの社員は退職することを選択されました。転身支援は40才以上を対象に割増退職金を支給するというもののみで、原則全員に異動していただくという考え方から、再就職支援のスキームは設定しません。

 

また、生産設備を移管する都合上、1ヶ月程度製品の生産を止めなければなりません。その間の在庫を確保するために、生産の前倒しを行わなければならず、退職を選択した社員の方々にも退職日ギリギリまで働いてもらえるよう、転職活動支援金を支給するという裏ワザを使いました。

 

 

これは、退職日ギリギリまで働いて生産前倒しに協力してもらうため、転職活動のスタートがその分遅れるための所得保障の意味合いを込め、退職日前2ヶ月間休まなかった場合には、2ヶ月分の給与ならびに残った有休を買い取るというものです。

 

川崎の工場から宮城に異動する社員の大部分は土地勘がありません。転居に対する不安を少しでも取り除くために、さまざまな情報提供も行いました。工場がある自治体の市長自ら川崎工場に出向いていただき、対象者に対し説明会を開いて市のPRもしていただきました。

 

また、食堂には常設の相談コーナーを設け、グループ会社の不動産部門に協力をもらって、社宅向けの物件情報の紹介なども行いました。また、共働きで小さなお子さんのいる社員からは、保育園の空き状況や受入条件なども勘案して社宅の場所を決めたいなど、さまざまなリクエストが寄せられ、一つひとつ調べながらフォローをしていきます。

 

その結果、転勤に関してはトラブルもほとんどなく200名以上の社員がスムーズに転勤することができました。また、追い込み生産についても要員不足などを起こすことなく、生産計画どおりに在庫を確保することができました。

 

一方で、これまで川崎工場の中心となって、リーダーシップを発揮してくれていたメンバーも数多く会社を去っていきました。この工場で育った店主にとっては、川崎工場のスピリットが会社からなくなっていく気がしてとてもさびしい気持ちになったことが今でも忘れられません。

 

つづく…