出向
クライアント企業から出向に関する相談を受ける機会が増えた。この「出向」という取扱い、よく耳にする言葉ではあるが、その内容を理解している人事屋さんは多くない。
辞書を引くと「命令を受けて、籍をもとのところに置いたまま、他の役所や会社などで勤務につくこと」とある。(出典:デジタル大辞泉)
では、法律的にはどうか。最近では下図のように「在籍型出向」を指す場合がほとんどである。
要するに社員は、出向元企業と出向先企業の両方と、二重の雇用契約を結ぶというものである。文章で書くとわずかこれだけの話しであるが、実務をすすめるとなるとそう簡単な内容ではない。
実務の推進の手順は以下のステップとなる。
- 出向で実現したい目的について出向先との合意
- 出向先の労働条件、服務などの調査、情報交換
- 出向時の条件設定
- 出向者への取扱い説明
- 出向契約書の締結
- 出向開始
といった具合だ。
出向を合法的に行うためにはいくつかのポイントがある。
まず、労働者派遣業法に抵触しないよう、出向の目的を設定する必要がある。『出向が「業として行われる」場合には、職業安定法第44条により禁止される労働者供給事業に該当する』とされている。
「業として行っていない」と判断されるためには、出向目的を適切に設定する必要があるのだ。
そして2つ目。出向先が適切な額の人件費を負担すること。この「適切な額」というのも重要で、出向する社員は出向先の仕事をするのであるから、多くても少なくてもマズいのだ。
出向先の負担額が多い場合、結果として出向元の企業は出向者にかかる人件費より多い金額を得ることになるので、利益が出てしまい「業として行っている」と判断され、職安法に抵触する可能性が出てくる。
一方、出向先の負担が少ない場合には、出向先が経済的利益を出向元から得ていると判断されるので、出向元に対して寄付金課税が発生する可能性が出てくる。
出向期間中の処遇、取扱いの設定にも注意が必要だ。二重の労働契約という特殊な環境である故、設定に悩む読者も多いと思う。
基本的な考え方は「属地主義」と「労働条件の維持」の2点である。
出向先で働くにあたって「わたしは●●社の社員だから、出向元のルールにあわせて働かせてもらいます!」では出向先の社員は一緒に働きにくい。感情的な反発さえ容易に想像できる。
なので、基本は行った先にあわせる「属地主義」を適用する。代表的なのは就業時間帯やカレンダー、勤務シフトなどである。
一方、出向元の労働契約も依然存在するので、労働条件の不利益変更にならないよう、給与、賞与や退職金など基本的な労働条件については、出向元のルールを適用するか、労働時間のように属地主義を適用せざるを得ない条件については、金銭的な補填などを検討する必要がある。
そういった処遇、取扱いを検討、決定し、出向者を送り出すことになるのである。
このような出向に関する実務、人事屋さんのなかでも経験して、しっかり理解している人材は貴重な存在だ。読者のみなさんも担当することになった場合には、貴重な経験ととらえ、しっかりと取り組むことをおススメしたい。