一次面接
説明会は一時間ほどで終わり、面接の順番が発表されました。当日集まった学生は全員その日に面接を受けますので、順番がくるまでは近所で時間をつぶし、決められた時刻になったら会場前に戻って待機するようにとのことでした。ボクは、近所の喫茶店で会社案内を読み返したり、志望動機を再確認したりと面接への心の準備に取り掛かりました。
なかでも気を遣ったのが「なぜこの会社なのか」ということでした。ふつうに考えれば知名度と規模で完成車メーカーを志望するハズです。そこをあえて部品メーカーにきた訳ですので、そこの説明をしっかりとして納得してもらうのがポイントと考え、説明会に申し込んでからずっと考えてきたのですが、いまだいい説明が思い浮かびません。
地元に工場があって実家から通えて、乗ってたバイクにキャブが付いてて、たまたま社名を知っていたからなんて本音は口が裂けても言えません。まったく説明が浮かんでこないまま面接会場の前にきてしまいました。今思うとたいした時間ではなかったと思いますが、そこで待っている時間が途方もなく長く感じられ、心臓はバクバク音を立て、口の中はカラカラに渇いていました。
「こんな調子で大丈夫か?」と思っている矢先、声がかかり面接会場へ通されました。そこは、先ほどまで説明会で使っていたテーブルや椅子が隅に片付けられただけの即席の面接会場で、同じ採用担当の二人が座っています。「どうぞ」と声を掛けられ、手と足が一緒に出るのを必死にこらえて自己紹介をして何とか無事着席できました。
最高潮に緊張しているのがわかったのでしょうか。「今日はここまでどうやってきたの?」、「今日の説明会はどうでした?」などアイスブレークに気を遣っていただき面接スタートです。「なぜ、うちの会社を受けてみようと思ったか理由を聞かせてください」ほらさっそくきました。
「オートバイが好きで、前に乗っていたバイクにも御社のキャブが付いていて、性能が高く(ホントにわかっているハズもありませんが…)、祖父の実家のある角田市に工場があり、地元に工場があることで何となく親近感もあり、大好きなオートバイに携わる仕事がしたいと考え志望しました」
「他にもオートバイの部品を作っている会社さんはたくさんあると思いますが、なぜ当社なんですか?」第二波到来です。
「キャブレターというエンジンを制御し、性能を決めてしまうような重要な部品を手がけていて、その技術力の高さから将来性もあると考えました」その場で自らの意思と関わりなく口をついて出た言葉に面接官も納得したようで、それ以上のツッコミはなく、無事関門を突破しました。
やがて卒論の話になったときに最大のピンチがやってきました。ボクはクルマの改造費のためにアルバイトばかりやって、学校へはほとんど行かないという不真面目きわまりない学生でした。
単位が取りやすくて、内容もゆるいというだけで何の興味もないのに地理学のゼミに入り、動くものが好きだという理由だけで交通地理学と称し、仙台市の地下鉄をテーマにしていました。
「ほお、地下鉄の研究を? で、仙台の地下鉄の課題は? どうすればいいと思いますか?」絶対絶命のピンチです。
「仙台の地下鉄は現在、南北に走っていますので、今後は、東西に走らせるべきだと考えています!」顔から火が出るかと思うほどの恥ずかしさをこらえ、キッパリと言い切りました。入社後、退職するまで「まあ地下鉄の研究してるやつよりはマシだよな。仙台の地下鉄の課題は、南北の次は東西だっけ?」と酒の肴にされ続けました。
つづく…