Cafe HOUKOKU-DOH

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人事屋修行記(第8話)

現場実習

入社時の集合研修も終わり、全員現場実習のスタートです。入社した会社は製造業ですので作って売ってナンボの商売です。やはり会社運営の基本は生産現場にあり、そこを知らないといい仕事ができないという考え方に基づき、以前から新卒者は現場実習をやっています。

 

会社は宮城県の南部に2つの工場があり、それぞれに鋳造(型に金属を熱してどろどろに溶かしたものを流し込んで部品をつくる)、加工(鋳造で作った部品に穴をあけたり、削ったりする)、組立(加工された部品にほかのさまざまな部品を組み付けて製品にする)の3種類の職場がありました。

 

工場なので職場によっては早番、遅番の二交替、それに夜勤も組み合わされる三交替の勤務があり、実習でもシフトに組み入れられます。我々新入社員は一人ひとり実習先を通知され、各職場に配置されていきました。

 

店主は、キャブレターという機械式の燃料供給部品を組み立てる職場に配属されました。組立ラインは先頭から最終工程の完成品検査まで長さ約15m、人数にして約20人程が働いていました。そのうち男性は班長とラインスタッフの準社員の男の子(店主より若い人でした)と店主の3人だけ、あとは全員女性でした。

 

朝礼でみなさんに紹介され、ラインスタッフのお姉さん(店主と同年代でした)に担当する工程に連れて行かれ、ひと通り作業手順と注意ポイントを2~3分説明され、すぐにスタートです。

 

説明を受けている間もラインは動いていて、周囲の人が入れ替わり立ち替わり作業をして製品を次の工程に流していきます。

 

「何かわからないことや困ったことがあったら周りの人に聞いてください」と言ってお姉さんはいなくなってしまいました。「えっそれだけ?」と思いながらも説明されたとおりに部品を組付けてはじめましたが、当然思うようにはいきません。

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これでも機械いじりは得意な方で、仲間うちでも手先は器用な方で通っていたのですが、店主の工程の前には製品がどんどん溜まっていきます。とにかく目の前のものを一秒でも早く、一個でも多く組付けようと一心不乱に作業をしました。

 

それでもどんどん溜まっていき、すぐに作業台に載りきらない程溜まってしまいました。そうすると前の工程の人がどこからかバケットを持ってきて、溜まった製品をその中に入れて横によけてくれるのです。

 

そういうことを繰り返すうちに、バケットはまるでパチンコ屋さんで大当たりしているかのように、4段、5段と胸の高さまで積みあがってしまいました。

 

「こんなに溜まってどうすればいいんだろう」とパニックになっていると、2つ3つ前の工程の人がやってきて、「さあ、替わって!」と言って代わりに作業をはじめました。

 

するとどうでしょう、あっという間にあれだけ積まれていたバケットはなくなり、作業台の上に載るだけの数に戻ってしまいました。「ハイ、それじゃあとよろしくね」とひと声掛けてまた自分の担当工程に戻っていくその姿は、はっきり言ってカッコ良すぎました。

 

当然その人の工程は、ヘルプに来る前に次の工程用の仕掛り品をたくさん作っておいてあり、その仕掛り品がなくなる前に戻って行ったのは言うまでもありません。

 

今思い出してみると、なんとなく配属された最初の頃のラインスピードは特に速かったような気がします。ちょっと新入りにごあいさつしてあげようか的な…。

 

第一日目を終え、ヘトヘトになって寮にたどり着き、これからこの会社(というかこのラインのこの作業で)を続けていけるか不安になっていたのは言うまでもありません。

 

つづく…