Cafe HOUKOKU-DOH

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人事屋修行記(第23話)

独身寮


総務の仕事は範囲が広いわけですが、その中に独身寮の準備もありました。今ドキのように社宅や独身寮物件を外注一括管理などしていませんので、新たに必要となるたびに不動産屋から物件を紹介され、現地で確認して契約をしていました。

 

当時の会社は転勤が頻繁ではなく、あっても年に1人とか2人とかのレベルでした。それに対して独身寮は毎年新卒者が配属されてきますから、年に1回定期的にある仕事です。店主も2年目の新卒が配属される時期になり、ようやく社内に後輩ができると喜んでいると、寮の準備を担当するように言われました。

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1年前に配属された1991年入社の川崎工場配属組は、南武線の立川の2つ手前の谷保という駅から15分ほど歩いた国立市に寮がありました。当時寮の物件を手配してくれた先輩になぜ川崎に通うのに国立にしたのか訊ねると、物件がなかったので南武線沿いを探して転々として行き、とうとう国立まで行ってしまったとの話でした。

 

当時の店主は夜も遅く、通勤時間の長さには閉口していたのですが、物件を探していると会社の近所に新築の1棟貸し物件が出てきました。早速詳しい条件を確認してみると、法人契約で1棟貸しの方が家主も喜ぶし、賃料なども相談に応じるとのことでした。

 

悪だくみ?を思いついた店主は、自分の同期と今度配属される新卒の人数や引越し費用、手数料などのイニシャルコストや寮が国立から会社の近所になって減る通勤手当や賃料の差額などのランニングコストの差を出し、数年でペイできると踏みました。

 

早速その内容をまとめて係長に相談すると、コスト削減になるならイイとのまさかの一発OK。ビックリしましたが、そこは厳しい上司ですので、家主のと賃料と敷金、礼金、手数料を交渉するよう、条件が付けられました。

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店主担当の予備交渉後、上司が直接交渉し、ようやく交渉成立で、1991年入社組の通勤時間は1時間20分から徒歩10分に短縮されることになりました。

 

新たに契約した寮に店主の同期が入った後に後輩たちも引越ししてきました。店主は総務の担当として、引越しの受入れも担当しました。1年前と同じように実習先の宮城の工場から移動してきた新卒をホテルまで迎えに行き、寮まで案内し鍵を渡して、引越し荷物の搬入が終わるまでが仕事です。

 

特にトラブルがなければただの立会いなのですが、万が一トラブルがあったときには、新卒者だけに対応がなかなか難しく、今のように携帯電話もない時代でしたので立会いは必須でした。

 

店主は川崎工場の総務を離れるまで毎年立会いを担当しましたが、かならず心がけていたことがありました。最初に新卒で配属されて川崎にきた夜に一人で夕飯を食べて、とてもさびしい思いをしたことが忘れられなかったので、毎年、荷物の搬入が終わると全員に声をかけ、用事がなくて一緒にメシ食べてもいいという新卒と夕飯を食べることにしていました。

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毎年店主と同じように何人かは、特に用事もなく、土地勘もないので是非といってくれて、一緒に飲みながら夕飯を食べました。たかが1日目の夕飯ですけど、引越しの荷物も片付かない部屋で一人でメシ食べるのはあまり気分のいいものではないと思いますし、何より誰かと話をしたり、近所の情報なんかも欲しいでしょう。総務に顔見知りがいるだけで、最初のスタートで何か困りごとがあれば相談しやすいだろうと思い、一人で勝手に続けていました。

 

そんな一緒にメシを食べた連中から、管理職や部長まで出てくるようになってきたころ、彼らから当時の話をされると、覚えていてくれたことに、続けてよかったと思わされるのでした。

 

つづく…