入寮準備
わが家の愚息は、おかげさまでこの春ようやく就職する。イマドキの理科系は院卒があたり前になってしまっていて、この+2年間で気の効いた国産の新車が買えたのではないか?と思うほどの経費がかかった。
内定承諾から10ヶ月、ようやく勤務地(実習先)と入寮先の連絡がきた。3月はなにかと忙しい時期だし、コロナ禍で落ち着いているとはいえ、3、4月の時期は引越しするのも業者の確保にひと苦労である。親子ともども気をもんでいた。
先週、内定者サイトから「住居関連」の資料一式が届いた。独身寮の住所や引越しの内容について、概要が説明されていた。説明資料や書式など10種類以上である。その直後、「入社手続き」に関する資料も送られてきた。こちらも同じく10種類以上の書類である。
これまで書類をつくって送る側であったが、今回久々に受け取る側として書類を見せていただいたが、ホントに懇切丁寧に説明されており、毎年のこととはいえ、このようなたくさんの資料を毎年アップデートして送っていることに頭が下がる思いである。
引越し
引越しは会社契約の運送業者が担当する。当然、単身の新入社員として常識的な範囲での荷物量の上限が設定されており、店主が見る限り、多めの荷物にも対応してくれている。また、自家用車やバイクの陸送も個人手配ではあるものの、費用を負担してくれるということで、ずいぶん親切な設定だと感心した。
独身寮も自社物件で最近建てられた物件のようで、とても好待遇である。イマドキの寮なのか、個室で生活のすべてが完結するようにトイレ、バス、キッチンなどもついており、民間の賃貸物件と同じレベルだ。
当然、寮費は破格の金額に設定されており、民間物件とはくらべものにならない。企業の福利厚生制度がなせるワザである。
これらの待遇や個人負担の費用については、会社が福利厚生の一環として、仕事に集中してほしい、という観点で設定しているものだ。そこをわが家の家族にはしっかりと伝えることが店主の役割だと、今回あらためて思いを深くした。
というのは会社員時代、直接の担当ラインではなかったものの、独身寮の入寮年齢を引き下げる(早く期限を迎える)という見直しを、本部長の思い付きで、隣の総務がやらされて、揉めにもめたことを思い出したのである。
入寮期限年齢の引き下げ
ボタンは最初から掛け違っていた。会社側は福利厚生は労働条件ではなく、会社専決事項であり、また世間対比でかなり上回った条件を世間並みに改定するというスタンス。いわんとすることも理解できなくはないが、入寮者側の視点はまったく欠けていた。
入寮者側からすれば、入寮期限はいわば内定承諾時に提示された契約条件の一部であり、それを改悪するのであれば、相当な理由が必要だという考え方である。
段取りも悪く、事情もよく理解していない総務課長が、「上から命令されてきました」感を思いっきり出して説明してしまい、説明会は大炎上。組合も巻き込み相当なおおごとになってしまった。
人事施策における考え方の重要性
本部長にしてみれば、なぜ大卒ばかりがそんなに優遇されるのか。住居に関する費用は基本的に自分で負担すべきものではないか。独身寮に入っていない社員は、1万円強の住宅補助を受けているだけなのに不公平ではないか、という考え方である。
人事の専門家でないでの、表面的な金額やコストばかりに目が行ってしまい、寮を準備してきた目的や考え方など、まったく無視していた。さらに経過措置も設けず、ある日突然入居年齢の引き下げを宣言し、その説明もべき論だけで、まったく入寮者の心情を考えない説明は、納得どころか反感という感情に火を付けてしまったのであった。
そうなってしまうと、会社が福利厚生の一環として新卒者のために寮を準備している、などとということは、まったく吹き飛んでしまって、入社時の労働条件を一方的に下げられた、後出しじゃんけんであり、まったく不誠実だという感情一色になってしまった。
このような福利厚生に属する取扱いというのは、会社側にすると恩恵的な取扱いでコストとしか見ていない場合が多いが、恩恵を受けている側からすると、だんだんあたり前のモノとなり、そうなると契約内容という感覚になってしまう。
やはりスタートの時点で、会社側は入社時の契約条件の一部であるというスタンスで行くべきだし、ルールを変えるのであれば、そもそもなぜ、どのような目的で寮を準備していたのか、をしっかりと踏まえて環境変化にどのように対応していくべきか、を考える必要がある。入寮者の側も、条件ではあるものの、他の社員からすると優遇されてる部分だと認識すべき点ではあると思う。
そのような双方の認識をベースに建設的な意見を出し合い、いい形で合意形成をはかるべきであったと思う。
ちなみにこの件は、年齢引き下げを強行したため、若干の経費削減にはなったが、これがきっかけで若手社員に会社に対する不信感が蔓延し、せっかく採用してこれからというエンジニアなどが多数退職していくという結果になった。人事の専門家ではない本部長のなせるワザである。
息子の入寮案内を見ながら、10年以上前の出来事を思い出した週末であった。