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人事屋修行記(第35話)

課題対応

新しい給与計算システムの目玉は、今までまったく別々に運用されていた給与計算システムと人事情報管理システムが有機的にリンクして一体運用されるようになることでした。

 

給与計算システムは、25年以上前から稼動しているものでしたが、人事情報システムは、当時から8年前の1986年にそろそろわが社も必要ではということで、立ち上げたものです。

 

人事情報を立ち上げた当時は、給与計算システムとの一体運用という思想もあまりなく、単純に従業員の属人情報を配置や昇進、昇格、評価などのために管理しておくハコがあると便利というノリで作った感じでした。

 

しかし、人事情報の運用を進めていくと、だんだん精度に問題が出てきました。人事情報のメンテは、標準的なタイミングで行っていました。

 

入退社、任免、部門の異動、昇進、昇格、住所や家族の異動などの際に、従業員から提出された届け出書類もとに入力をしていきます。しかし、入力された情報が実際の仕事に使われるのは、年に数回の評価や昇格の作業のときであり、オンタイムでメンテしなかったり、入力間違いをしてもすぐには問題になりません。

 

結果、だんだんと蓄積されていく情報の精度が落ちていくことになりました。店主は、川崎工場で人事情報のメンテも担当していたのですが、これからの人事管理には必ずシステムが必要になるとの信念から、必死にメンテしていました。

 

しかし上司からは「そんなもの、給与計算に関係ないんだから、評価の前にまとめて正しくしておけばいいのよ」なんてことも言われていた程でした。

 

新しいシステムは、人事情報で管理している家族情報から家族手当や住宅手当の金額を支給条件に当てはめて自動で計算したり、所得税の扶養人数を用いたり、役付手当を計算させたりと完全にリンクさせ、人事情報のメンテ自体が給与計算に直結するようにして、人事情報を常に正しい状態にしておくことが必要不可欠という仕組みを作り上げていきました。

 

人間は楽な方向にはすぐに流れるものです。仕事の精度を高めていくにはこのように、(正しい情報をメンテさせることを)管理を行わない仕組み自体を作り上げることが最高の管理といえます。

 

そのような設計思想で進めてきたシステムですが、いざ本番移行となったときにたくさんの課題が出てきました。まず、人事情報に入っている情報の精度を100%正しい状態にしていかなければなりません。

 

もっともボリュームの大きい情報は、住居と家族情報でした。これについては、全員分のデータを一人分ずつプリントアウトして配布し、違っている場合赤字で修正して提出してもらという作業を全社に向けて展開しました。

 

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その修正も結構なボリュームでしたが、修正内容から導きだされた手当の計算結果と現行給与計算システムの計算結果とを付き合わせたところ、30件以上のアンマッチが出てきました。

 

それらを一件ずつ内容を詳細に調べていき、必要に応じては、20年以上前の入社時の資料や結婚した当時の届け出書などをひっくりかえして確認作業をしていきました。

 

アンマッチはほとんどが手当の過誤払いで、中には20年近くもその状態が続いているものもありました。当時は、詳細な運用内規もなく、それら一つひとつの案件について、就業規則と照らし合わせてどのように判断していくかを検討していきました。

 

詳細に見ていくとそれらは一見ケースごとにバラバラのようでしたが、見方を変えると何種類かにカテゴライズされることがわかりました。

 

その種別ごとに基本方針を立て、その方針に基づいて対応をしていく際に、何が問題であり、何が課題になってくるのかを整理して、必要な対応をピックアップし、誰が担当して、いつまでにやり終えるのかを一覧にまとめて共有していきました。

 

必要に応じて新しい運用などもみんなで検討して決めて行き、総務課長や総務部長の承認も取り付けていきました。「賃金の過誤払いに関する運用内規」という副産物ができあがり、その後の人事部門のバイブルとなりました。

 

以降は一覧に従って粛々と対応を進めていき、毎週の定例ミーティング時に進捗を刈り取り、新たな課題を共有するということを繰り返し、PDCAを回していきました。

 

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まだPDCAなどという言葉も知らない時期でしたが、今思うとしっかりと進捗管理をしていたからこそ、たくさんの大きな課題にも、対応できていったのだと思います。

 

課題は、整理しないと巨大な塊であり、とても解決できないと思ってしまいますが、解きほぐして整理をしていくと、一つひとつの課題への対応は、そんなに難しくないことがほとんどです。こんなことをこの時期にプロジェクトのメンバーや仕事を通して身に付けさせてもらったのは、今思うと本当にありがたいと思いました。

 

つづく…