Ⅰ型スーツ
アイビーやわが国のトラッドファッションにおいては、スーツやジャケットの基本型は「Ⅰ型」と呼ばれている。イメージしやすくいうならば、アイビーにおけるブレザーをイメージしてもらうとわかりやすい。
最近は、イタリアのエレガントなシルエットが主流のように感じている。流行りの服装にはそれなりのよさがある。できればそのような服装を身につける際には、まずは基本を押さえたうえで身にまとって欲しいものである。今週はスーツやジャケットの基本型であるⅠ型について、見ていきたいと思う。
スーツの基本型
もっともフツーなシルエットで、時代を超えたカッコよさがある。見方によってはとても地味であり、主張するようなシルエットやでディールもないので、ベーシックアイテムとして、ビジネスシーンにはとても向いている。
一方で以前にもお伝えしたように、服が主張しない分、着る人の中身がにじみ出てくることになり、ゴマカシが効かない。ベーシックアイテムを身につけるには、自分自身を磨く必要があるのだ。
デティール
Ⅰ型に特徴的なデティールは以下のとおりだ。
- ジャケットのウエスト部分にしぼりがない「ボックスシルエット」
- 肩パットを極力薄くした「ナチュラルショルダー」
- シングル3つボタン中1つ掛け「段返り」
- ジャケットの背はセンターで鉤(かぎ)型に切り込みが入る「フックベンツ」
- 衿やポケットのフラップ、背中などに入る0.6~0.7mmのステッチ
Ⅰ型ジャケットに相性のいいアイビーパンツ
- パンツには尾錠(バックストラップ)
- 裾は3.5~4.0cmのダブル
ブルックスブラザーズ
Ⅰ型スーツの誕生は今から120年前の1901年。約200年前に英国食品の輸入商店として創業したブルックスブラザーズは、創業者の英国仕込みの服装が評判となり、英国生地でスーツを仕立てる店舗を開業していた。
ブルックスが売り出したのは「ナンバーワン・サックモデル」。これがアイビーリーグの学生やOBたちの人気になっていった。しかし、当時はまだ吊るしの洋服というものは存在しておらず、テーラーメイドが基本であった。この庶民には手の届かないⅠ型スーツを着こなすアイビーリーガーは、米国民のあこがれの存在であった。
1950年代頃には、技術革新により既製服の大量生産が可能になり、ブルックスのナンバーワンサックモデルを真似たスーツが大量に出回ることで、あこがれのアイビースタイルが流行した。
もうひとつの理由としては、Ⅰ型のボックスシルエットが、体型を選ばない誰にでも合う既製服として、米国の合理主義とマッチしており、大量生産が可能になったといわれている。
なぜ、わが国で基本なのか
戦後のわが国は、男性のカジュアルな服装という概念がなかった。そこに戦勝国であった米国の圧倒的な経済力を背景とした、大量消費文化が光り輝いており、そのライフスタイルのなかのひとつのアイテムとして、アイビーリーガーたちの服装があった。
アイビーリーガーたちの服装をライフスタイルも含めてわが国へ持ち込み、紹介していったのがVANであった。アイビーとして紹介された服装術は、その後トラッドファッションとして、わが国独自の変遷を遂げていく。
しかし、そのベースはアイビーリーガーのアイテムやドレスコードであったのだ。また、アイビールックは見た目の清潔感から、若者だけでなくそれらを経験したビジネスパーソンの服装にも取り入れられた。そして米国由来のアメリカントラッドとして、基本として定着していったのであった。