コミュニケーション
当時店主の担当業務のひとつに、運用内規など規定の改廃があることは以前書きました。就業規則以下の人事に関する規定や内規を一冊のファイルにまとめ、各拠点の人事に備え付け、実務の際の参考書として活用してもらうものでした。
現場では、毎日いろいろなことが起こります。運用内規に書いてあれば、それを見て判断していくのですが、そこに記載がない場合も当然出てきます。その場合は、本社人事に問い合わせるというルールになっていました。
結構な頻度で拠点の人事からは問い合わせをもらっていました。問い合わせの最初は、だいたい「出張者が台風で列車に泊まったときは、車中泊の宿泊費を支給するのか」などといった表面的な事象だけを伝えて質問してきます。
店主はそのような問い合わせに対し、かならず今回のケースについて具体的な内容を教えてもらうようお願いし人や場所、日時や理由をあわせて確認していました。そうすることで、その案件の前後の状況や背景までも理解したうえで、その案件がどのような行動と定義をして、どのように取扱うことが妥当かを判断できるからでした。
表面的な質問は担当者の主観と持っている規定の知識の範囲内で、ある程度翻訳されて届いてきます。しかし、具体的な内容を聞いていくと、実はその担当者が知らない規定を適用するのが妥当であったり、従業員の行動として見た場合に、解釈の視点が違っていることがよくありました。
確かに質問にだけ答えているほうが楽なのですが、質問をそのまま受け取り、表面的な回答をしてしまうと、結果として間違った判断につながってしまう可能性が大きいですし、案件の本質も見えてきません。手間はかかりますが、一歩も二歩も突っ込んで案件を把握するようにしていました。
あわせて気をつけていたのは、相談された案件の解決とその案件から抽出される労務取扱いの本質や考え方の整理は別物で、店主自身の仕事としては後者であるということでした。
ともすると今相談を受けている目の前の案件が解決すればいいという安易な方向に走ってしまいがちですが、従業員の取扱いについても「法的安定性」が非常に大切で、会社としての考え方や取扱いに一貫性がないと信頼を失ってしまいます。
そのためにも具体的な事象まで踏み込んだコミュニケーションをとっていくことと、毎回の判断結果については、その問い合わせから始まり、判断にいたるまでのプロセスをあわせて、すべての資料をファイリングして残すようにしています。問い合わせへの対応の第一歩は、過去の同種案件探しから始まります。
店主が25年も前に始めたこの仕組みは、歴代担当者に引き継がれていきました。このように担当者が代わっても、その仕組みを理解し、しっかりと運営してきてくれた担当者たちには本当に感謝したいと思います。
つづく…