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人事屋修行記(第137話)

事業譲受2

事業譲渡による転籍者の受け入れは、およそ10年前に沖電気さんのカーエレ事業部を受け入れた際に担当していましたので、なにをどのような手順で進めていくかのイメージは頭の中に入っていました。なので、TODOリストとスケジュールはあっさり完成です。

 

まずは、双方の人事制度や労働条件、厚生制度などを項目ごとにならべて比較表を作っていきます。会社が違うので、仕組みが同じということはありませんが、受け入れる側が上回っているか、差があっても対象者が限られるなど、大きな問題にならない程度の差であればセーフです。

 

一方で、受け入れ側の条件が低い場合には、基本的に受け入れ側の制度をそのまま適用するので、労働条件が下がってしまい問題となります。そうした場合には、転籍の際に出し側の方で条件低下分を退職金で補填するなどして、理論的に生涯年収が下がらないような措置を入れることになります。

 

 

今回の転籍では、報酬水準は同じから若干出し側の方が高めでした。スキームとしては、切り出した事業部を別会社にして双方出資し、その店主の後前々職会社が出資比率を上げて行き、完全子会社化するというものでした。

 

子会社の社員が親会社より高い報酬水準では、他の子会社とのバランスが取れませんし、その後の人事交流にも支障が出てきます。また、親会社である完成車メーカーから見ると孫会社になってしまい、健保や厚生制度などが適用できないという問題もありました。そこでひとひねり入れて、一旦店主らの会社に転籍させ、その上で全員を子会社に出向させるというアイデアでクリアです。

 

また、退職金制度のカーブも出し側会社の方が高く、労組からのリクエストに退職金制度である確定給付年金は、それまで積み立てた金額を全額制度間で移管して、定年後きちんと年金として受取ることができるようにして欲しいとありました。

 

それまでの経験では、基本的に受け入れ側の制度には一切触らず、転籍前会社の制度については、すべて転籍時に退職と同様に精算して移ってきてもらうこととしていました。ただ、確定給付年金制度においては、対応が可能であることがわかり、年金の移管を前提とした特例取扱い制度の設計を行いました。

 

このときの制度設計においても、15年前の3社合併の経験がとても役に立ったのはいうまでもありません。制度設計や統合では、目的ややりたいことに対して現状を見たときに、そこには問題や課題が出てくるのですが、それに対する対応手段のパターンというものがある程度頭に入っていると、その組み合わせでたいがいのことはなんとかなるものです。

 

このときも転籍後の制度で一旦計算した面積から、転籍前の面積を差し引いて、そこに転籍時に持ってきて塩漬けにしておいた年金原資の面積を加え、退職金総額を確定させることでなんなくクリアすることができました。

 

出し側会社の人事や事業部のメンバーも、退職金が一番の課題と頭を抱えていたので、我々が提示してその方法が有効であることがわかったときの喜びようは今でも鮮明に覚えています。

 

そのような工夫も織り込みながら、転籍条件を積み上げ確定させていき、無事300名の転籍を受け入れることができたのでした。

 

つづく…