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人事屋修行記(第145話)

春闘

前職では、ショップ制の労働組合があったため、夏冬の賞与は毎年、2月から3月にかけての春闘の場で、労使で交渉をして決めていくスタイルをとっていました。当時、労働組合の全社の窓口は、店主の担当していた人事企画室となっていて、店主は労組担当の責任者という位置づけでした。

 

労働組合の組織率は、1950年代には50%を超えていましたが年々低下し、2018年当時では約17%になっていて、最近では一般的に馴染みのない人のほうが多いと思います。

 

労働組合にもさまざまなものがありますが、歴史の長い大企業を中心とした組合は、管理職を除く正社員はかならず組合に加入するというショップ制が7割近くになっていて、主流の形といえると思います。

 

企業別労働組合で全員加入という形態ですので、会社側が考える労働組合の位置づけというのは、一般的には馴染みがないものかと思います。会社は労働組合を「第2の人事機能」と位置づけ、社員と会社の重要なコミュニケーションのルートと位置づけていました。

 

通常、会社の方針や決定などは、組織の上位、つまり社長から本部長、部長、課長といった下位へ、職制のルートを通じて伝達されていきます。それに対する質問や意見などは、逆方向に上がっていく機能はあるのですが、言いづらいなどうまく機能しないのがほとんどです。

 

 

そこで、労働組合というもう一つのコミュニケーションルートによって、方針や決定などの情報を詳細にフォローしたり、意見や質問を経営に伝えていくということが期待されているのです。

 

したがって、労組担当の責任者としては、お互いに立場は違う中でいかに労組幹部と信頼関係を築いて、密なコミュニケーションを取れるようにしておくかがとても重要になってくるのです。

 

前々職では、社長や管理本部長といった経営メンバーは親会社から転籍して来ましたので、労組幹部と長年の付き合いがあって、お互いを知り尽くしているプロパーの店主の役割は、大きいものがありました。

 

春闘は毎年2月中旬に要求書が出され、その後週に1回のペースで事務折衝という実務ベースでの協議を重ねていきます。そして周囲の労使交渉の結果も見ながら、3月中旬の集中回答日にヤマ場を設定して、団体交渉で決着を付けて行きます。

 

団体交渉というのは、執行部以外に組合の各支部の代表も出席し、会社側も社長から全権委任された役員クラスの交渉委員長が出席して開催されますので、いわばセレモニーです。実際に交渉をまとめて行くには、会社側の労組担当と組合執行部が事前にアンオフィシャルな話し合いを長い時間をかけて進めていきます。

 

だいたい12月中旬には、3Q決算の見通しが出てくるので、それをベースに回答できる水準を提示し、労組側に要求水準の考え方を整理してもらう実務TOP会談を持ちます。その後1月中旬の労組内での要求内容の決定に向けて、裏で何度となく話し合いを重ね、決着できそうな要求水準に落ち着けていく作業を繰り返していくのです。

 

会社側が一番神経を使うのは、やはり組合執行部の面子です。春闘で景気のいい要求を組んだはいいけれど、会社の回答がまったく乖離してしまっては、組合員からの信用を失ってしまいます。一方で、無難な要求水準に終始してしまっては、御用組合とのそしりをまぬがれません。

 

そこらへんを踏まえつつ、しかし一方で、そのような労組執行部の立場などへの理解が浅い人物が経営者になった場合には、執行部の立場を代弁して、回答可能水準の見直しなども提案、説得しながら、落とし所を探っていくのが労組担当の役割であり、醍醐味ともいえます。

 

また、それらの水準は、すべてロジカルに説明できるものでなけばなりません。世界経済の趨勢からはじまり、政治や業界動向など、自社のビジネス以外にもさまざまな情報を集めて、水準の説明をするための理由をストーリーとしてまとめ、経営者、労組執行部と認識をあわせる必要があるのです。

 

徹夜の団体交渉とその結果の回答書は、このような4ヶ月にわたる取り組みと調整の成果なのです。それでも、労組執行部の立場をおもんばかって、シャワーを浴びに帰るだけのホテルの部屋を予約しつつ、毎年断続的な事務折衝に徹夜でお付き合いするのでした。

 

つづく…