Cafe HOUKOKU-DOH

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人事屋修行記(第164話)

退職

2月上旬に申請書を出した店主は、人事部長として出席する主要会議からはすべて外れ、3月末の退職まで居心地の悪い毎日を過ごすことになりました。人事部長としての引継ぎなど、せいぜい半日もあれば終わってしまいます。

 

有休消化も考えましたが、毎日顔を出していれば、周囲のメンバーも聞きやすいだろうと考え、やることもないまま会社に出ていました。

 

退職後の予定は当初まったく考えていませんでしたが、暇な毎日を過ごしていくうちに、せっかく退職するのだから、このチャンスにしかできないことをやってみることを思いつきました。以前から好きだった司馬遼太郎さんが描いた幕末の志士たちが活躍した舞台となった土地をゆっくりと見て回るというものです。

 

 

そんなことを漠然と考えつつ、退職の日を迎えてみると、予想に反し実にあっさりしたものでした。周囲のメンバーはこんな辞め方を選んだ店主に対し、とても気持ちよく送り出してくれました。一方で自分の気持ちはというと、会社を辞めるという事実が実に淡々と進んでいくだけで、こんなものなんだという感じでした。

 

会社に新卒で入社して以来25年間、仕事を何よりも優先して生活してきて、自分の中では最重要事項だった仕事と会社だったので、辞めるときにはもっと強い衝撃というか、大切なものを失ってしまった感じとかがあるかと考えていました。しかし、実にさっぱりとした感じで気持ちもスッキリとしていました。

 

あれだけ自分の中では大事だと思って関わってきましたが、いざ自分がいなくなることになっても、あたり前ですが、組織と仕事はいつもどおり進んで行くという現実を目にして、これまでの自分の中における位置づけやとらえ方が、いかに特別視しすぎていたかということに気づかされたのでした。

 

 

それまでの仕事に関する取り組みや姿勢は、自分では正しいと考えてやってきましたし、いまもそれでよかったと考えています。しかし、そういう関わり方がすべてではなく、人それぞれいろいろな関わり方があるということを、この年令になって気づかされたのでした。これはおそらく転職をしてみないとわからなかったことだと思います。

 

店主は無事、退職日を笑顔で迎えることができ、社宅の荷物をまとめて仙台の自宅に引っ越しをし、約9年間の単身赴任生活にお別れすることになりました。そして、早速再就職支援プログラムのガイダンスに向かったのでした。

 

つづく…