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人事屋修行記(第153話)

企業倫理改善提案窓口

コンプライアンスへの高まりを受けて、前々職の会社でも「企業倫理改善提案窓口」という内部通報の受付窓口を設置していました。会社の業績を左右するような重要な仕事ではない一方で、相談内容への対応を間違うと、会社存続の危機に発展するような案件も多数扱います。

 

ですので担当者には企業倫理に関する知識はもちろん、広範な社内知識やさまざまな問題や課題解決の経験、そしてなにより時代の流れを敏感に察知する感性や、常識的な判断などが求められます。

 

こういった窓口の担当は、総務や人事といった管理系部門の部長経験者などの上級管理職が、ライン長を外れたり再雇用で特命担当としてお願いをするのが通例であり、前々職の会社でもそのような人事が続いていました。

 

ところが店主が人事の部長になったころ、ちょうどメンバーの年齢構成の谷間の時期にあり、そのような適任者がおらず人選に困っていました。しかし、いくら考えても適任者がいない事実は変わりません。お前やれ、のひとことで店主が兼任することになりました。

 

窓口には、電話やメールなどで相談や投書が入ってきます。対応は第一報が入ると、匿名の場合を除いては相談者に対して通報の秘密は厳守するとお伝えし、まずは対面での聞き取りを打診します。

 

OKをもらったら面談をセットするのですが、人事部長が突然関係のない部署にあらわれると、何ごとがあったのか、という憶測を呼びますし、まして関係のない一般社員と面談などあり得ませんので、基本は就業時間外に社外でというケースがほとんどです。

 

 

面談が終わったあとは、必要に応じ関係者からヒアリングを行ったり、事実関係を確認するための資料などを集め分析し、事実の裏付けを念入りに行っていきます。

 

そして、相談内容の事実関係がほぼ固まってきたところで、相談者に対して相談内容への対応について、再度意向確認を行います。相談者と案件の当事者は大体社内で何らかの関係性がある場合がほとんどであり、今後、仕事を続けていくうえで、相談者に不利益がないことが最優先です。ここは、相談者の意向を最大限尊重し、その上で問題解決をはかっていきます。

 

意向確認の上、就業規則などに照らして処分を希望するという場合、ようやく当事者を呼び出し、事実関係の確認を行います。

 

事実確認の場面では、その人の人間性が出てきます。言い訳を言ったり、取り繕ったりする人がいる一方で、事実を認めて素直に謝罪する人や、そこまでに至るまでの経緯や気持ちをきちんと説明して反省する人など、立場や年令に関係なく、その人そのものがあらわれる瞬間です。

 

当事者との事実確認後、就業規則違反がある場合は、労使メンバーによる賞罰委員会で処分内容を検討して、経営会議で最終的に決定というプロセスを踏んでいきます。そして最後に処分内容を文書で上司同席の場で総務課長から通知し、それと同時に社内掲示板やイントラネットに実名、行為内容入りで掲載し一件落着となります。

 

懲戒処分は人事係長時代から約15年近く担当してきました。たくさんの人が働いているといろいろなことが起きるものだとつくづく思いだされるのでした。

 

つづく…