定番商品
IVYやトラッドといった男性服飾カテゴリーやそのアイテムというのは、その成り立ちや思想から、流行とは基本的に無縁である。無縁というより流行というものを否定する思想といっても過言ではないであろう。
英国の紳士淑女が伝統を重んじるように、初期のIVYやトラッドは、ファッションではなくライフスタイルであるといった考え方も根強かった。したがって「ねばならぬ」式のルールとともに、こだわればこだわるほど格好がイイといった雰囲気があった。
その後数回のIVYブームを経て、ねばならぬ式も頑なに伝統を重んずる思想もマイルドになり、IVY NOTE No.1で取り上げたユニクロの柳井さんと石津さんとの対談で柳井さんがいっていた、「僕が考える一番いい服とは、トラディショナルな定番にシーズンのトレンドが”少しだけ”入った服」が登場し、ファンもそれらアイテムを上手に取り入れていくようになった。
店主も基本的に柳井さんの考えに賛成なのだが、それでも長年着続けているアイテムのなかには、くたびれてきたので同じものを買いなおしたい、という場面が結構ある。ところが、「少しだけ」でなく、まったく違ったアイテムのみで、昔からの「定番商品」と呼ばれるものが廃版になるケースが多いのだ。
ボタンダウンシャツは、鎌倉シャツのオックスフォードクロス、クラシックフィット という定番を着ているのだが、このうちブルーが廃版になってしまった。今では仕方なく倍近い値段でオーダーでつくってもらっている。
IVY総本山のVANも最近はかなりあやしい。尾錠付きのチノパンやブレザー、三つ釦段返り中一つ掛けのスーツなど、スーツやジャケットの類はほぼお世話になっていたのだが、最近は吊るしのモノは少なくなってしまった。パターンオーダーというセミオーダーを利用すればいいのだが、吊るしがいつ行ってもあるという安心感はなくなってしまった。
日系のトラッドブランドも定番は期待できない。そこそこイイ感じのモノはおいてあるのだが、ジャケットなど細かなディテールを確認していくと、店主に納得感をもたらしてくれるアイテムにはしばらく出会っていない。
パンツは男性向けのトラッドのアイテムのなかで、もっとも流行りにディテールが影響を受ける。店主も最近はあきらめ気味で、ここのところパイプドステムなどとはいわず、細身のシルエットに切換えた。
ジーンズもリーバイスの501以外は、すでにどの品番がそのような製品なのか、まったくわからなくなっている。
いまや紳士服ブランド自体が受難の時代なのだ。かくいう店主も以前は毎日会社にスーツやジャケットを着て行っていたが、いまは自宅で仕事をし、スーツなどは年に数えるくらいしか袖を通さなくなってしまった。
一方で海外勢や機能性重視のアイテム、シューズは、定番がずいぶんとがんばっている。たとえばグローバーオールのダッフルコートやシェラデザインのマウンテンパーカー、トップサイダーのデッキシューズにクラークスのデザートブーツやワラビーなどなど。
歴史あるブランドには、トラディショナルなデザインにイマドキの機能をちょっとだけ加えたものでいいので、そのブランドを代表する製品だけは、いつでも手に入るという安心感を感じさせて欲しい。それがそのブランドの付加価値だと思う。