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人事屋修行記(第176話)

課長退職

その報告は突然なものだった。「転職するので退職します」人材開発課の課長がなんの悪びれた様子もなく意思表示をしてきたのは、GW明けのことであった。

 

あらためて思い返してみるとその兆候はあった。店主が担当部長から人事戦略部長に昇進するタイミングに合わせ、それまで総務を担当していた課長クラスの方を人事戦略部付の担当部長にしたいと、担当の執行役員からお願いされた。

 

以前にも書いたとおり、当時の会社ではポジションにこだわる社員が多く、結果として部下なし課長クラスの管理職の中から担当部長に任用するケースが散見された。

 

意味合いはさまざまだが、昇格や報酬の変化を伴わない、実質的に資格呼称を付与しているようなものであった。なので店主はまったく気にしていなかった。

 

ところがその事実を知った人材開発課長は店主に対し、「なぜ彼が自分より上位の役職に昇進するのか?」と怒り心頭で食ってかかってきて、会社に対し不信感を募らせていたのであった。その話を聞いた際には、資格呼称みたいなもので、実質的になんの不都合もないから気にするなとなだめたのだが、そこに納得していなかったのだ。

 

 

課長クラスが突然辞めるというようなことは、前職ではほとんどなかったので、当時相当おどろいた記憶がある。がしかし、おどろいている暇はない。後任者をすぐに探さなければ実務が止まってしまう。

 

さっそく当時お付き合いしていたあらゆるコネクションに連絡し、課長クラスの人材を中途採用することになった。

 

店主は人事屋さんの中途採用はうまくいかない、というのが持論である。理由は2つ。ひとつは優秀な人事屋はロイヤルティが高く、そもそも転職しないということ。2つ目は仮に転職するなら起業して会社に属さず、自らビジネスを作っていくからだ。

 

なので、相当な危機感を持ちつつも、採用に値する人物が現れることは、正直期待していなかった。

 

ところが、である。現れたのだ。それも2名も。両者とも大手電機メーカーの出身で、ひとりは会長秘書兼渉外担当の経験者。もう一人は労組幹部経験後、人事系の職種を希望し、人材系企業へ転職していた方であった。

 

そして1人目はなんと、離職中とのこと。こんなにうまい話があっていいのか?とも思ったが、実際に会ってみると、スバラシイのだ。即採用を決めたのだが、もう一人の方も、人事としてのキャリアは少ないものの、ポテンシャルはかなりのものがありそうであった。

 

ここは担当役員と結託し、要員管理があまい会社であったので、いろいろと理由をくっつけて採用してしまうことに。

 

離職中の方は、すぐ入社できるよう手続きをすすめ、なんとか前任者とラップすることができた。これもかなりラッキーであった。

 

こうして1名の退職者に対し2名を採用し、こっそりと戦力増強をはかった。災い転じて何とかである。この2人のおかげで実務が安定し、店主は人事制度の見直しなど戦略策定と実行に集中できるのであった。